わたし、子宮脱の手術を受ける予定です。
一週間の入院予定なんだけど、これって本当に予定通りでいけるのかしら? もし入院期間が長くなるとしたら、どんな原因がありますか? |
こんな疑問に答えます。
おはようございます。辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
子宮脱や膀胱瘤などの骨盤臓器脱手術を受ける場合に、いちばん多い質問の一つが、この入院期間についてです。
入院期間の見通しがついてないと、みなさん困りますよね。
骨盤臓器脱手術を受けた方の99%は、大きなトラブル無くほぼ予定通りに退院できています。
骨盤臓器脱手術の入院期間は、原則一週間です。
ただし遠方の方とか、重度の糖尿病がある方(後述)とか、ヘパリン化を行う方(後述)では、入院期間を長めに設定することがあります。
最近では、私の骨盤臓器脱手術を受けた方の99%は、大きなトラブル無くほぼ予定通りに退院できています。
※これは子宮脱や膀胱瘤など、「膣側からの手術」の話です。
直腸脱手術(肛門側からの手術)の場合は、もっと条件が厳しくて、入院が長くなる人の比率が増えます。
骨盤臓器脱の術中術後に起こる重大トラブル(まれ)
骨盤臓器脱の術中術後に起こる重大トラブルとして、「大量出血で輸血が必要」とか、「重度の臓器損傷で再手術が必要」などがあります。
これまで1400例を超える骨盤臓器脱手術を手がけてきて、この重大トラブルが原因で退院延期になった方は、2名いました。
(ここ数年は起こっていません)
重大トラブルはめったに起こらない(確率は1/500以下)ということです。
骨盤臓器脱の術後に起こる便秘(多い)
骨盤臓器脱術後に起こるトラブルで、圧倒的に多いのが、この「便秘」です。
入院して環境が変わって、しかも術後は安静を保つので、どうしても便秘気味になるんです。
これは下剤を増量すれば解決するので、問題ありません。
便秘が原因で退院が遅れることはまず無いと言えます。
術後に起こる排尿トラブル
骨盤臓器脱手術を受けた方は、術後4日間は、おしっこの管(バルーンカテーテル)を留置します。
これは膀胱を安静に保つことが目的です。
このバルーンカテーテルを抜いた後に、「排尿が落ち着かない」とか、「おしっこが出にくい・出ない」というトラブルが起こることがあります。
排尿が落ち着かない(ときどきある)
バルーンカテーテルを抜いた後、排尿が落ち着かない人がいます。
「尿意が頻繁にある」「トイレが近い」という訴えが起こるんですね。
これは手術で膀胱が刺激を受けることが原因です。
経過を見ていけば、いずれ落ち着いてきます。
退院が遅れることは、まずありません。
おしっこが出にくい・出ない(まれ)
バルーンカテーテルを抜いた後に、「尿が出にくい」「尿が出ない」という人が、まれにいます。
「尿が少し出にくくて、残尿がやや多い程度」であれば、「排尿を促す飲み薬」を飲めば、症状は軽快してきます。
「尿がほとんど出ないとか、残尿がとても多い」ような場合には、バルーンカテーテルを再留置する必要があります。
この場合、退院が遅れることになりますが、再留置を要する人はまれです。
わたくし年間200件以上の、子宮脱膀胱瘤の手術を行っていますが、再留置となるのは年に一人いるかいないかという程度です。
痛み(だれだって多少はある)
どんな手術であれ、術後には多少の痛みがあります。
痛みがある場合には、痛み止めの内服薬で対処します。
退院する頃には、痛みはほとんど問題なくなります。
痛みが原因で、退院が遅れることはまれです。
その他の理由
ほかに退院が遅れる理由として、以下のようなものがあります。
病気以外の、いろんな個人の事情ですね。
家が遠いから、もう少し長目に入院したい。
一人暮らしで不安だから、もうしばらく入院していたい。
家は寒いから、温かい病院にもっと入院していたい。
入院中は食事の用意してくれて楽だから、もうしばらく居たい(笑)
退院したらこき使われるから、もっとここに置いててほしい(ほんとにこんな人いました)
まあ理由はいろいろです。
ベッドに空きがあるなら問題ないですよ。
どうぞゆっくりしていってください・・・
予定より早目に入院していただくこともあるんです。
通常、骨盤臓器脱手術を受ける方は、手術の2日前に入院していただきます。
ただし以下のようなケースでは、もっと早く入院する必要があります。
重度の糖尿病がある場合
糖尿病の人は、免疫力が低下しています。
だから感染(傷に細菌が繁殖して化膿すること)のリスクが高くなっています。
糖尿病をきちんとコントロールしてから、手術にのぞむ必要があります。
糖尿病の指標で、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)というものがあります。
入院の一か月前に、術前検査と一緒に、この値を調べます。
HbA1cが7以下であれば、問題なく予定通り手術できます。
7~8の間であれば、入院まで節制していただきます。入院時にもう一回チェックして、数値に問題なければ予定通り手術しています。
もし数値が悪化するようなら、手術延期も考慮します。
8以上であれば、入院日を早くして、手術の1~2週間前に入院していただきます。
これはHbA1cの重症度によって、入院の長さを変えています。
インスリン(糖尿病の注射薬)で糖尿病の管理を行った上で、手術にのぞんでいただきます。
ヘパリン(血液サラサラ薬)の点滴が必要な場合。
画像:持田製薬
骨盤臓器脱手術を受ける患者さんでは、抗血栓薬(血液サラサラの薬)を飲んでいる人が多いです。
この抗血栓薬の飲み薬は、手術の数日前から、中止する必要があります。
(薬の種類によって、中止期間は異なります)
抗血栓薬を飲んでいる人では、主治医に問合せの手紙を書いて、中止していいかどうか問い合わせます。
そのお返事に、「ヘパリン化が必要」と書いてあることがあります。
ヘパリンとは、点滴の抗血栓薬です。
抗血栓薬の飲み薬を中止している期間、ヘパリンという点滴に切り替えます。これを「ヘパリン化」といいます。
点滴が必要なんだから、その間は入院が必要です。
抗血栓薬の飲み薬を中止する日数は、薬によって異なっており、規定で決まっています。
もし手術一週間前から中止する必要があるのなら、そこからヘパリン点滴が必要なので、入院も手術一週間前に変更するわけです。
赤木一成 辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科