直腸瘤は、直腸と膣の間にある壁が弱くなって、ポケット状に膨れてくる状態です。
直腸瘤の治療は「保存的治療」と「手術」に分けられます。
保存的治療は、便通のコントロールを行って直腸瘤と「付き合っていく」方法であり、これで直腸瘤が治るわけではありません。
直腸瘤を根本的に治すには手術が必要となります。手術には経肛門手術と経膣手術があり、直腸瘤の状態で使い分ける必要があります。
われわれの施設では、直腸瘤の専門診療を行っています。状況に応じて経肛門手術と経膣手術から最適な術式を選択し、治療に取り組んでいます。
直腸瘤とはどんな病気?
直腸瘤も骨盤臓器脱の一種なのですが、他の骨盤臓器脱(子宮脱や膀胱瘤)と扱いが異なるところがあるので、分けて解説しています。
直腸瘤(ちょくちょうりゅう)は、女性の便秘の原因として最近よく知られるようになってきた疾患です。
この病気は「直腸膣壁弛緩症」「直腸ポケット」「レクトシール」などと呼ばれることもあります。
出産で膣周囲の組織が傷つくこと、加齢による女性ホルモンの減少、排便時のいきみなどが直腸瘤の原因です。
直腸瘤を有する方の場合、直腸と膣の間にある壁が弱くなるために、直腸がポケット状にふくらんできて膣から脱出してきます。
女性の骨盤臓器の中では膣が一番弱いところなので、ここに直腸から圧力がかかって、膣の方にとびだしてくるわけです。
くわしく:
直腸瘤の症状
直腸瘤の症状は、「排便障害」の訴えと「膣壁がふくれてくる(膣壁の膨隆)」という訴えが主なものとなります。
重症の直腸瘤では、「排便時に膣を押さえないと便が出ない」とか、「膣壁がピンポン玉のようにふくれてくる」という訴えが起こります。
くわしく:直腸瘤の症状
直腸瘤はどの診療科を受診すればいいの?
直腸瘤で悩んでいる方の場合、直腸粘膜脱・直腸重積・痔核・裂肛といった直腸肛門の疾患を合併していることがよくあります。
また、子宮脱や膀胱瘤といった、婦人科および泌尿器科の病気を合併していることもあります。
だから直腸瘤の治療は、大腸肛門科・婦人科・泌尿器科の3科がそろっており、病状に応じて各診療科の協力が得られるような病院で治療を受けるのがベストです。
大腸肛門科だけでは子宮脱や膀胱瘤の対応は難しいし、婦人科や泌尿器科では直腸肛門疾患の治療を行うことができないのです。
くわしく:
直腸瘤の診断
直腸瘤は、肛門から指を入れて直腸を膣方向に押すと膣壁がとびだしてくるので、それだけでほとんど見当がつきます。
さらに排便造影検査↑を行って、直腸瘤のくわしい状態や併発している直腸肛門疾患の有無を調べる必要があります。
また大腸内視鏡検査を行い、直腸癌などの有無をチェックしておく必要もあります。
さらに状況に応じて、MRI検査で膀胱瘤や子宮脱の有無をチェックしたり、肛門内圧検査で括約筋の機能を調べることもあります。
くわしく:
直腸瘤の治療①:保存的治療
直腸瘤の治療は、「保存的治療」と「手術」に分けられます。
軽症の直腸瘤では、緩下剤や食物繊維の薬で対処を行います。ただしこれは根本的な治療ではなく、「直腸瘤と付き合っていく」方法です。
いっぽう直腸瘤の症状が強い場合や、保存的治療で改善しない場合には、手術をお勧めしています。
くわしく:直腸瘤の治療(保存的治療)
直腸瘤の治療②:手術
直腸瘤の手術は、肛門側から行うもの(経肛門手術)と、膣側から行うもの(経膣手術)に分けられます。
直腸瘤の経肛門手術
直腸瘤経肛門手術の手順は以下のごとくです。
①直腸粘膜と筋肉にしっかりと糸をかけて縫い縮める。
②反対側も同様に縫い縮める。
③縫合が完了したところ。右図は断面を側方から見たところ。直腸と膣の間に「ついたて」が形成される。
この経肛門手術は、性交障害のリスクが無く、直腸肛門の合併疾患(粘膜脱や痔核など)への対処も容易なのですが、「膣壁の膨隆」を治す力は経腟手術に劣ります。よって若い人の直腸瘤や、排便障害が主訴の直腸瘤に行われます。
くわしく:直腸瘤の手術(経肛門手術)
直腸瘤の経腟手術(後膣壁形成術)
直腸瘤経膣手術(後膣壁形成術)の手順は以下のごとくです。
①直腸瘤が脱出している状態。
②膣壁を切開し、膣壁と直腸の間を剥離(はくり:はがすこと)していく。
③左右を縫合して、直腸が出てこないようにする。
④余った膣壁をカットする。
⑤膣壁を縫合して完成。二層に縫合が行われている。
この経膣手術は、直腸瘤の「膣壁の膨隆」を治すのに適しています。ただし膣壁に傷ができるため、性行為や出産に支障が起こる可能性があるので、若い人には行われません。
くわしく:直腸瘤の手術(経膣手術)
直腸瘤の手術:どの術式がいいの?
どの術式にも長所と短所があるため、患者さんの状態に応じて最適な治療法を選択することが重要となります。
どれか一つの術式だけでは、すべての直腸瘤に対応することはできないのです。
そのため、「主訴(いちばんつらいと思っている症状)」「年齢」「直腸肛門疾患(直腸粘膜脱・直腸重積・痔核・裂肛など)の合併の有無」といった要素を考慮しながら、患者さんの希望を尊重して術式を決定することになります。
原則として、「排便障害」が主訴であれば経肛門手術。「膣壁の脱出」が主訴であれば経腟手術を選択しています。
あとは性生活の有無などを考慮しつつ、本人の希望を尊重して、術式を選択することになります。
くわしく:
直腸瘤の手術で、夫婦生活は大丈夫? 十分配慮してますが、時に悩むことがあります。
直腸瘤専門外来
辻仲病院柏の葉(千葉県柏市) では、「骨盤臓器脱専門外来」にて直腸瘤の専門診療を行っております。
骨盤臓器脱とは、骨盤臓器(直腸・子宮・膀胱・小腸)が膣や肛門から脱出する疾患のことをいいます。
直腸瘤・子宮脱・膀胱瘤・直腸脱など、さまざまなものがあります。
辻仲病院柏の葉では、数多くの直腸瘤の診療及び手術を行っております。
千葉県・茨城県・埼玉県を中心に、全国各地から直腸瘤で悩む方が多数受診されています。
作成:赤木一成(辻仲病院柏の葉 医師)