直腸脱は、直腸が肛門から脱出してくる疾患であり、高齢の女性によく見られます。
子宮脱や膀胱瘤といった、他の臓器の脱出を伴っていることもよくあります。
直腸脱は自然には治らないので、治すには手術が必要です。
直腸脱の手術には、肛門側から行う手術(経肛門手術)と、おなかの中から行う手術(経腹手術)があります。
われわれの施設は、年間100例を超える直腸脱の手術を行っています。
状況に応じて経肛門手術と経腹手術から最適な術式を選択し、治療に取り組んでいます。
直腸脱とはどんな病気?
直腸脱は、骨盤臓器が「肛門」から脱出してくるタイプの骨盤臓器脱です。
この直腸脱は、高齢の女性によく見られます。加齢によって直腸を支える筋肉が弱ってくることで、直腸が脱出してくるわけです。
直腸脱は脱出の程度に応じて、完全直腸脱と不完全直腸脱があります。
脱出する腸の長さはさまざまで、ほんのちょっとしか脱出しない人もいれば、30cmくらい脱出するケースもあります。
直腸脱は通常、排便時だけ脱出して、排便後には戻ることが多いのですが、重症化すると脱出したままになります。このような場合には、出血や痛みを伴ってくることもあります。
また、直腸脱がさらに重症化した場合には、直腸がおおきく腫れて戻らなくなることもあります(かんとん直腸脱)
直腸脱を有する人の多くは、肛門のしまりがゆるくなって便失禁を伴っています。また子宮脱や膀胱瘤など、他の臓器の脱出を伴っていることもあります。
くわしく:
直腸脱とはなにか
直腸脱の原因
直腸脱の症状
直腸脱はどんな人に多い?
直腸脱は痔核とどう違うのか?
直腸脱と肛門機能障害
直腸脱のタイプ
直腸脱の手術
直腸脱を治すには手術が必要です。自然に治ることはありません。
直腸脱の手術は、肛門側から行う手術(経肛門手術)と、おなかの中から行う手術(経腹手術)の二種類に分けられます。
経肛門手術には、デロルメ法、三輪-Gant法、アルテマイヤー法、ティールシュ法などがあります。
また経腹手術には、腹腔鏡下直腸固定術が行われています。
経肛門手術
直腸脱は80代くらいの高齢女性に多い疾患なので、侵襲(ダメージ)の少ない経肛門手術が、まず考慮されます。
当院でもっとも多く行われている経肛門手術は、デロルメ法です。
他にも、三輪-Gant法、アルテマイヤー法、ティールシュ法などが行われることもあります。
直腸脱は、外来診察の時点で脱出してないことが多いので、前もって術式を決めておくのが難しいことがあります。
だから麻酔をかけて直腸を引っ張り出して、その場で最適な術式を選択するようにしています。
経腹手術(腹腔鏡下直腸固定術)
腹腔鏡下直腸固定術はおなかの中から行う手術です。
経腹手術が経肛門手術より優れている点は、↑「重度の直腸脱でも対応できる」ところです。
(重度の直腸脱に経肛門手術を行うと、再発しやすい)
逆に経腹手術は、↑軽度の直腸脱(粘膜脱主体の直腸脱)には向きません。
粘膜のたるみが強い直腸脱だと、おなかの中から直腸を固定しても、粘膜が下がってきて再発しやすいんです。
治すには、このたるんだ粘膜を、肛門側から切り取ってあげる必要があるんです。
もうひとつ、この経腹手術は、侵襲(ダメージ)が大きいという短所があります。
全身麻酔が必要で、おなかの中から内臓を切ったり縫ったりする必要があり、また手術時間も長くなるからです。
どの術式がいいの?
直腸脱の術式は、上記のいろんな事情を考慮して、選択することになります。
↑ひとつの術式だけで、すべての直腸脱を治すことはできないんです。
術式の大きな決定因子は、①直腸脱の状態、②全身状態、の二つです。
(他にもいくつかありますが、マニアックなので省略)
軽度の直腸脱であれば、全身状態に関わらず、経肛門手術をおすすめしています。
いっぽう重度の直腸脱で、全身状態が問題ない人であれば、経腹手術をおすすめします。
悩ましいのは、重度の直腸脱で、全身状態が悪い人です(この状況、けっこうあるんです)
- 手術侵襲が大きいのを承知で、(再発しにくい)経腹手術をやる。
- 再発可能性があるのを承知で、(侵襲が小さい)経肛門手術をやる。
正解があるわけではありません。本人家族とよく相談して決めるようにしています。
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱専門外来
経肛門手術と経腹手術の両方について、十分な経験を有している病院は、全国的にもほとんど存在しないのが現状です。
われわれの施設では直腸脱の専門診療を行っており、年間100例以上・通算3000例近い直腸脱の手術を行っております。
患者さんの状況に応じて、経肛門手術と経腹手術から最適な術式を選択して治療に取り組んでいます。
千葉県・茨城県・埼玉県を中心に、全国各地から直腸脱で悩む方が多数受診されています。
赤木一成(辻仲病院柏の葉 骨盤臓器脱外科医師)