直腸脱手術:術式の使い分けと入院スケジュール

  • 2020年12月15日
  • 2021年12月5日
  • 直腸脱

 

おはようございます。

辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。

 

本日は、難敵「直腸脱」についてお話いたします。

 

 

直腸脱手術は、子宮脱手術と比べて、条件が厳しい人が多い。

 

子宮脱手術のスケジュールは、定型化しやすい。

子宮脱に代表される、「膣」から脱出する骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤)は、入院スケジュールの定型化が容易です。

 

年代層で多いのは60代70代で、比較的ふくよかで栄養状態が良くって、元気のいい人が大半です。

 

だからほぼ全員が(99%)、大きなトラブル無く経過して、予定通りに退院していきます。

 

直腸脱手術のスケジュールは、定型化が難しい。

いっぽう「肛門」から脱出する骨盤臓器脱(直腸脱)は、こうはいきません。

 

年代層は80代90代が主体で、やせてて栄養が足りてなくって、全身状態がよくない人が多いんです。

しかも直腸は便が通るところだから、膣壁と違って、休むことができません。

さらに直腸粘膜は、血流が豊富で、膣壁よりずっと出血しやすいんです。

 

子宮脱手術と比べて、いろいろと条件が厳しいんですね。

だから、入院期間が長くなるケースがあるんです。

 

直腸脱の手術:大きく分けて、二つのやり方がある。

 

直腸脱の手術は大きく分けて、肛門側からの手術(経肛門手術)と、おなか側からの手術(経腹手術)があります。

 

いずれも長所短所があるので、直腸脱の状態とか、患者さんの全身状態とか、いろんな要素を考慮して選択しています。

 

ただし、この両者の手術を「日常的に」行っている病院は、全国にもほとんどありません。

 

■直腸脱手術の術式を決める基準①:直腸脱出の状態

 

↑これが、直腸脱のイラストです。

 

直腸が脱出しています。

表面に見えるのは、直腸粘膜です。

その奥に、筋層があります。

粘膜が筋層を覆っているということです。

 

重度の直腸脱は、原則として経腹手術を行う。

 

たとえば↑こんな風に、直腸全体が大きく脱出してくる、重度の直腸脱。

 

筋層が主体で「ボッコン」といった感じに脱出してきます。

 

こんなタイプの直腸脱は、肛門側からの手術を行うと、再発する可能性が高くなります。

経腹手術で、おなか側から直腸をひっぱりあげて、筋層をしっかり固定してあげる必要があるんです。

 

比較的軽度の直腸脱は、経肛門手術が有利なことが多い。

 

その一方で、↑粘膜がたるんで先行して「シワシワ」と脱出してくるタイプの直腸脱もあります。

 

たるんだ粘膜が肛門から脱出してきて、筋層がそれに続いて引っ張られて出てきます。

 

このタイプの直腸脱は、あまり大きく脱出してきません。

 

このタイプの直腸脱に経腹手術を行って、筋層だけ固定するとどうなるか。

それだとたるんだ粘膜が、また肛門から脱出してくることがあるんです。

 

だからこのようなタイプの直腸脱では、経肛門手術を行った方がいいんです。

肛門側から、余った粘膜を切り取って、縫いつけてあげるんですね。

 

直腸脱の状態を見極めて、最適な術式を選ぶ必要がある。

だから直腸脱って、脱出の状態を見極めて、最適な術式を選ぶ必要があります。

 

 

ただし実際には、

「この直腸脱は、経肛門手術じゃないと治らない」とか、

「この直腸脱は、経腹手術じゃないと治らない」みたいに、

はっきり分けられるケースばかりとは限りません。

 

「どっちがいいか悩ましい・・・」という直腸脱も多いんですよね。

(=「どっちでもいけそう」とも言えるわけですが)

 

そういう場合には、次の「全身状態」も考慮しつつ、術式を決定するんです。

 

■直腸脱手術の術式を決める基準②:全身状態

もう一つ、患者さんの全身状態も、術式選択基準として大事になります。

 

経腹手術は、「腹腔鏡」というカメラを使って行います。

 

この手術では、↑頭を低くして、下半身を高くした状態にします。

さらにおなかをガスで膨らませてパンパンにした状態で(気腹といいます)、手術を行います。

 

だからこの手術、肺や心臓が圧迫されて、負担がかかるんです。

しかも経肛門手術と比べて、手術時間も長くなります。

 

高齢者では、この手術を行うには、リスクが高いことがよくあるんです。

 

直腸脱手術:当院ではどうやって使い分けているか

 

 

以上まとめますと・・・

 

それほど大きく脱出しない直腸脱(粘膜脱出が先行するような直腸脱)は、全身状態にかかわらず、経肛門手術をおすすめしている。

 

大きく脱出する直腸脱(筋層脱出が主体)では、全身状態が良好であれば、経腹手術を行う。

(ほかにもいくつか要素があるんですが、マニアックなので省略)

 

悩ましいのは、「全身状態が良くない人」で、「大きく脱出する直腸脱」の場合です。

このような場合には、治療方針に悩むことになります。

(この状況、けっこうよくあるんです)

 

手術のリスクが高いのを承知で、経腹手術を行う。

再発リスクが高いのを承知で、経肛門手術を行う。

 

答えがあるわけではありません。

だから本人家族とよく相談して、治療方針を決めていくことになります。

 

直腸脱手術の入院スケジュールについて

 

条件が良くてリスクの低い人は、ほぼ予定通りに退院できる。

直腸脱手術の入院期間は、大体7~10日間になります。

これは全身状態とか、持病とか、飲んでる薬とか、お住いの場所とかで、変わってきます。

 

条件の良い人、たとえば比較的若くて、持病が無くて、近くに住んでいるような人では、術式に関わらずほぼ予定通りに退院できています。

 

条件が不利でリスクが高い人は、入院期間が延びることも多い。

いっぽう条件が悪い人では、入院期間が予定より長くなることが多いです。

 

相当高齢(80代90代)の方とか、

全身状態(心臓とか肺とか腎臓とか栄養状態とか)が悪いとか、

糖尿病があるとか、

抗血栓薬(血液サラサラの薬)を飲んでるとか、

遠方にお住いとか(直腸脱手術を日常的に行っている病院は少ない)

 

上記の要素が多くなるほど、条件が不利になります。

実際には、これらが全部そろっている人も、けっこう多いんです。

(直腸脱手術を受ける高齢者の多くは、だいたい全部そろってます・・・)

 

直腸脱の手術って、シビアな状況の人が多いということですね。

 

入院期間が長くなる原因は「便秘」と「出血」が多い。

 

術後に問題となるのは、便秘と出血です。

ほかにも想定外のトラブルが起こることもあります。

 

便秘

まず便秘について。

 

便を貯める場所(直腸)を切ったり縫ったりするので、術後はしばらく便通が落ち着きません。

便秘になったり下痢したり、ときには便が詰まって出なくなったりします。

 

だから便通が落ち着くまでは、退院しない方がいいんです。

 

出血

もうひとつのトラブルは出血です。

 

粘膜を切って縫ったところに、便が接触して、出血する可能性があるんです。

これは痔核手術の術後出血と同じです。

 

とくに高齢者では、抗血栓薬(血液サラサラの薬)を飲んでいて、さらに(認知症とかがあると)排便時に強くいきむ人がいるので、出血する可能性が高くなります。

 

その他のトラブル

他にも、全身状態が悪い高齢者では、思わぬ合併症が起こる可能性があります。

 

手術は上手くいっても、肺炎とか心疾患とか、そういった他部位のトラブルが起こることもあるんです。

 

以上、子宮脱や膀胱瘤の手術とくらべると、直腸脱手術はいろいろ難しいというお話でした。

 

赤木一成 辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科