近年わが国に普及してきた最新の直腸瘤の術式。
メッシュ本体を膣と直腸の間に留置し、アームを靭帯に固定してつり上げて補強する。
従来の方法では治すのが難しかった「重度の直腸瘤」や「子宮脱を伴う直腸瘤」にも対応できるという長所がある。
直腸瘤に対するメッシュ手術(TVM手術)について。
膣後壁側にメッシュを留置するので、posterior-TVM(P-TVM)と呼ばれる。
図のような小型の医療用シート(メッシュ)を用いる。
真ん中の部分をメッシュの「本体」といい、ここを膣と直腸の間に留置して、補強する壁の役割を果たす。
左右に伸びている部分を「アーム」といい、ここを靭帯に通してつりあげる。
(実際の術式)
左:膣壁を切開して開く
右:膣壁と直腸の間をはがしていく(剥離:はくり)
膣壁と直腸の間にメッシュを留置する。
メッシュの「アーム」を靭帯に通してつり上げる。
アームのつっぱりが手頃なテンションになるよう調節する。
膣壁を縫合閉鎖して終了。
膣と直腸の間にメッシュ(青いライン)が留置され、膣と直腸の間の壁が補強されることで、直腸瘤が治る。
メッシュの「本体」が膣と直腸の間に留置され、「アーム」が靭帯を貫通してハンモックのようにつり上げている。
直腸瘤のメッシュ手術(TVM手術):解説
この直腸瘤のメッシュ手術は、TVM手術(Tension-free Vaginal Mesh)と呼ばれています。
2000年ごろにフランスで開発され、我が国にも普及してきた術式です。
メッシュを用いて脱出する臓器を修復する方法は、元々そけいヘルニア(脱腸)の手術では長年行われてきました。
これを直腸瘤などの骨盤臓器脱の治療に応用したのが、ここで紹介するメッシュ手術になるわけです。
直腸瘤の手術で従来から行われていた経膣手術の方法は、「従来法とか後膣壁形成術」などと呼ばれています。
この術式は以前から世界中で広く行われてきたのですが、どうしても治療成績に限界があり、一定の割合で再発する可能性がありました。
この術式は、膣の周囲にある組織(筋肉や筋膜)を縫合して補強することで、脱出する直腸瘤を修復する方法です。
でも直腸瘤を有する患者さんの場合には、もともと膣周囲の組織が弱くなっていることが多いため、この弱った組織を用いて修復してもうまくいかないことがあるのです。
この「従来法」の欠点を克服するために行われるようになった方法が、「直腸と膣の間にメッシュを留置して補強を行う術式」であり、そのメッシュ法をさらに進化させたのがここで紹介するTVM手術というわけです。
このTVM手術では、直腸と膣の間にメッシュを留置して、さらに左右のアームを靭帯に固定してつり上げることで直腸と膣の間の弱った壁を補強します。
直腸と膣の間の弱った部位を広範囲にメッシュでカバーし、さらにアームの補強も加わるので、従来の経膣手術の方法と比べてさらに良好な成績が期待できます。
さらにこのTVM手術は、直腸瘤に高頻度で合併する子宮脱や膀胱瘤などの骨盤臓器脱という疾患にも対処できるというメリットもあります。
作成:赤木一成(辻仲病院柏の葉 医師)