たまに遭遇する悩ましい状況:今週の骨盤臓器脱手術は7例

  • 2021年2月13日
  • 2021年2月13日
  • 直腸脱

↑6階病棟受付です・・・

 

おはようございます。

辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。

 

週末なので、「一週間の骨盤臓器脱手術記録」を書きます。

 

これはリアルタイムの記録ではありません。ちょっと前の日常を描写しています。

 

子宮脱膀胱瘤の手術を6例、直腸脱手術を1例行いました。

この週は、骨盤臓器脱手術を7例行いました。

子宮脱+膀胱瘤の手術を6例、直腸脱手術を1例です。

 

子宮脱+膀胱瘤の手術では、6人全員が大きなトラブル無く経過し、だいたい予定通りに退院していきました。

 

そしてもう一件の↓直腸脱で、悩ましい状況に遭遇したんです・・・

 

悩ましい状況に遭遇した件。

 

この週は、悩ましい患者さんが受診してきました。

 

80代の女性で、足が悪くて車椅子の方です。

「肛門から脱出してくる」という訴えで受診されました。

 

診察台で診察してみる

まず、診察台で診察します。

 

80代女性でこの手の訴えは、直腸脱の可能性が高いです。

 

診察は↑こんな感じで、横向きになって行います。

 

でも診察では、脱出してるかどうか分かりませんでした。

 

吸引してみる

画像引用:荒川製作所

 

次に、↑「吸角(きゅうかく)」という器具を使って、脱出を再現してみます。

肛門にカップを当てて、掃除機みたいに吸引するんです。

 

でもこれでもよくわかりませんでした。

無理して吸引すると痛いので、ほどほどのところで中止します。

 

和式トイレでいきんでもらう

 

これでも脱出が再現できなければ、「怒責診(どせきしん)」という方法を行います。

 

↑和式トイレでしゃがんでもらって、いきむところを撮影するんです。

(女性スタッフが一人だけトイレに入って撮影するので、恥ずかしくないですよ)

 

でもこの方、足が悪いので、和式トイレにしゃがめません。

 

さーて、どうしますかね?

 

わたしは「たぶん直腸脱だろうなー」と思っています。

直腸脱は、手術しないと治りません。

でも、直腸脱を確認できない段階で、入院手術の予約を入れるのはためらわれます。

 

「診察→吸角→怒責診」という3ステップは、大腸肛門科の専門病院ではルーチンでやってる手順です。

これでうまくいかない時にどうするか?

 

三つ、方法があります。

 

自己撮影できませんか?

一つ目は「自己撮影」です。

病院で脱出を確認できないんだから、自宅で脱出したときに、本人か家族に撮影してきてもらうんです。

 

でもこの方、相当なご高齢だから、自分で撮影するのは難しそうです。

 

かといって、家族も「そんなの無理・・・」と及び腰でした。

 

経過観察はどうでしょう?

二つ目は、「経過観察」です。

 

「今回は脱出が確認できなかったから、しばらく様子を見たらどうでしょう?」と提案してみました。

 

でも本人は、「気になってしかたないから、すぐなんとかしてほしい」とのことでした。

 

最後の手段

 

うーん、それなら三つ目の「最後の手段」を使いますかね?

 

このような場合、「麻酔をかけて直腸粘膜をひっぱってみる」という作戦を使うことがあるんです。

(肛門が締まっているから、麻酔かけずに直腸粘膜ひっぱるのは無理なんです)

 

そのためには、わざわざ入院して麻酔をかける必要があります。

そこまでして異常が無かったら、入院の時間と費用が無駄になります。

 

本人は「それでもいいからやってほしい」とのことでした。

よっぽど気になるんでしょう。

 

 

さてさて数日後・・・

患者さんは入院して、手術室に入りました。

 

まず、脊椎麻酔を打ちます。

これは背中から注射する、下半身の麻酔です。

 

次に麻酔をかけた状態で、直腸粘膜をひっぱってみました。

 

 

そしたら・・・↑軽度の直腸脱が出てきました。

まあ、予想通りではありますが。

 

直腸脱は自然には治りません。

現在、麻酔がかかってるんだから、この場で手術することも可能です。

本人と家族に状況を説明したところ、このまま手術することを希望されました。

 

ということで、その場で↑デロルメ法を行いました。

一回の入院+麻酔で、診断だけじゃなく治療も行えて、めでたしめでたしです(笑)

 

直腸脱手術を行ったんだから、術後はしばらく入院が必要です。

その後は順調に経過し、退院されました。

 

なかなか直腸脱の診断がつかないときは、たまーにこうなることがあるんです。

 

「一発で診断をつけて手術する」のがカッコいいんだけど、実際にはこんな悩ましい展開になることがあるわけですね。

 

まあ、年に一人いるかいないかなんですけどね・・・

 

赤木一成 辻仲病院柏の葉 骨盤臓器脱外科