子宮脱と直腸脱の合併例

 

高齢の女性では、子宮脱と直腸脱を合併していることがある。

子宮脱と直腸脱の両方に対応できる病院は、全国的にも数少ない。


子宮脱はまず一回の手術で治せる。

直腸脱は軽症であれば、まず一回の手術で治るが、重症の場合には苦戦することがある。

 

 

高齢の女性では、子宮脱と直腸脱を合併していることがある。

※子宮脱は「膣」から子宮が脱出してくる病気。直腸脱は「肛門」から直腸が脱出してくる病気。「膣」から脱出するのは子宮脱のほかに、膣脱・膀胱瘤・直腸瘤・小腸瘤などもある。

治すには手術が必要。

子宮脱は経腟手術(従来法またはTVM手術)を行う。

直腸脱は経肛門手術(デロルメ法または三輪-Gant法)を行う。

この方法であれば、
膣側・肛門側から(おなかを切って内臓を切ったり縫ったりする必要が無い)
比較的短時間で(それぞれ1時間~1時間半くらいで行える)
小さい侵襲(ダメージ)で行え、
良好な成績が得られるようになっている(大半は再発無く治せる)


子宮脱と直腸脱の合併例:解説

高齢の女性では、子宮脱と直腸脱を合併していることがあります。

このような場合、どこの病院で治療を受けるかが問題となります。

子宮脱を取り扱うのは婦人科や泌尿器科だけど、直腸脱は守備範囲外です。

いっぽう大腸肛門科では、直腸脱は治せるけれど、子宮脱は守備範囲外です。



私の所属する施設は大腸肛門科の専門病院なので、かつては当院で直腸脱の手術だけ行って、子宮脱の手術は他院に紹介していました。

でもこのやり方では、患者さんが二か所の病院で手術を受ける必要がありました。

子宮脱と直腸脱を合併する人の多くは、80代の高齢者です。

このような方が、二か所の病院で二回に分けて手術を受けるのは大変なことです。

すべての方が、「一か所の病院で同時に両方治してほしい」と考えるのは当然のことでしょう。



でも以前は、子宮脱と直腸脱の両方に対応できる病院はありませんでした。

「それなら自分が両方治せるようになろう」と決め、大腸肛門外科から守備範囲を広げ、2009年頃より骨盤臓器脱に本腰を入れるようになったという経緯があります。



現在私(赤木)は、年間10~15例くらいのペースで「子宮脱と直腸脱の合併例」に対する手術を行っており、現時点で通算100例ほど手がけています。

「そんなに多くないのでは?」と思われるかもしれませんが、もともと直腸脱自体が頻度の低い疾患で、直腸脱と子宮脱の合併例はさらに数が少なくなるため、ほかの医療機関で「日常的に」この手術をやっているところはたぶん無いと思います。


そしてこのうち約90%の方は、再発なく一発で治せています。

子宮脱が再発することはめったにないのですが、重度の直腸脱は再発することがあります。

もし再発した場合には次の手を打つことで、最終的に全員治すことができています。

今後も術式の改良を続けていくことで、再発を限りなく0に近づけていきます。



子宮脱や直腸脱の手術には、ここで示した「膣側・肛門側から行う方法」のほかに、「おなか側から行う方法」もあります。

これは腹腔鏡というカメラを使って行う手術です(腹腔鏡下仙骨膣固定術+直腸固定術)

こちらの方法でも良好な成績が得られているようなのですが、体にかかる侵襲(ダメージ)が大きいという短所があります。

おなかをガスで膨らませて頭を低くするので肺心臓に負担がかかり、おなかの中から内臓を切ったり縫ったりする必要があり、さらに手術時間も長くなるため、高齢者に行うにはリスクが高くなるのです。

そのためわれわれの施設では、体への侵襲が小さい、「膣側・肛門側から行う手術」を第一選択としています。

 

作成:赤木一成(辻仲病院柏の葉 医師)