骨盤臓器脱手術で心がけていること:「理詰めの手術」をしています。

  • 2020年10月23日
  • 2020年10月23日
  • 直腸瘤

 

おはようございます。

辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。

 

毎日のように骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤直腸瘤)の手術を行っているんですけれども、この手術って、「理詰め」の作業の集合体です。

「なんとなく」行っているところは無くって、すべて「なぜそうするのか」という理屈の裏付けがあるんです。

 

 

直腸瘤の手術手順①:注射器でボス生を打つステップ

 

たとえば直腸瘤の経腟手術で、説明してみましょうか。

 

手術が始まってまず行うことは、まずボス生(ボスミンという止血作用のある薬を入れた生理食塩水)を打って、膣壁を切開する作業です。

 

注射器でボス生を打ってるときは、こんなこと考えながらやってます。

 

ボス生はどの位置に打つのが理想的か。そしてどのくらいの深さに打つのがいいのか。

針先が正しい深さ入ったときにどんな感触が得られるか。

ボス生が正しい深さに注入されるとどんな風に見えてくるのか。

浅すぎたらどんな風に見えるか。深すぎたらどうか・・・

 

直腸瘤の手術手順②:膣壁を切開するステップ

 

そしてメスで膣壁を切開するときは、こんなことを考えているんです。

 

メスで正しい層まで切開できた場合のメルクマール(目印)はなにか。

深すぎたらどんなふうに見えてくるのか。浅すぎたらどうか。

そして深すぎる層で剥離を進めてしまうとどうなるのか。浅い層だとどうなるのか。

手前側はどこまで切開するか。奥はどのあたりまで切り込むか。その根拠はなにか・・・

 

理屈の裏付けがないと、「再現性」のない「運任せ」の手術になりかねない。

 

注射を打って、膣壁を切開するだけでも、これだけいろいろ考えながらやってます。

 

注射を打つのは10秒くらい。膣壁を切開するのを合わせても一分くらいで終わる作業なんですけど、これだけでもいろいろ考えて行う必要があります。

 

これを踏まえないと、「再現性のない手術」になり、手術の成否が「運任せ」になりかねません。

 

すべて言語化された教材は存在しないし、教えるのはもっと難しい。

師匠が弟子に教えようとしても、こんなにたくさんのことをすべて言語化して教えるのは難しいんです。

そしてたぶん、私自身が無意識でやっているコツもいろいろあるはずです。

 

だから言葉で伝えきれないようなところは、弟子が自分なりにコピーして、再現できるようにしないといけません。

 

そのへんの感覚って、「センス」という言葉で表されるんだと思っています。

「手取り足取り」だけでは頭打ちになるということですね。

 

赤木一成 辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科