骨盤臓器脱外科医師の、赤木一成です。
今回は、骨盤臓器脱の腹腔鏡手術について、お話させていただきます。
「腹腔鏡下仙骨膣固定術」といいます。
2014年に保険が適用されるようになった、比較的新しい手術です。
これはもともと欧米で普及が進んだ手術です。欧米では高齢になっても性生活を重視するカップルが多いようなので、この手術が普及しやすい下地があったと考えられます。
腹腔鏡を用いてメッシュを埋め込む手術
この手術、↓このような形状のメッシュを使用します。
「ポリプロピレン」という、プラスチック素材でできています。
手術はおなかに数ミリの傷を5か所くらいつけて、そこからカメラをおなかの中に入れて手術します。
子宮を取って、↑膣壁にメッシュを縫い付けて、メッシュのもう一方の端を腰の骨(仙骨)に固定します。
唯一の長所:性交障害が起こりにくい
この手術の唯一の長所は・・・
「性交障害が起こりにくい」という点ですね。
手術操作をおなかの中から行うので、膣壁に手を付けないため、性交障害が起こりにくいわけです。
だから40代50代くらいの体力ある人で、今後も性生活を重視したいという希望がある場合には、この手術が選択されます。
・・・ただ実際には、骨盤臓器脱の手術を受けるのは、60台後半とか70台80台の人が大半です。
この年代の日本人で性生活を重視する人はほとんどいないため、この手術を積極的に勧めるケースはそれほど多いわけではありません。
このような場合には、体への侵襲(ダメージ)が小さい「膣側からの手術」が選択されます。
短所はいろいろある
いっぽうこの手術、経腟手術(膣側からの手術)とくらべて、以下のような短所があります。
- 手術時間が長くなる(2時間半~3時間)
- 長時間にわたって頭を低くする弊害:心臓(心機能負担増)・肺(無気肺)・脳(脳動脈瘤)・眼(緑内障)
- 原則として子宮を取る必要がある
- よって手術の侵襲(ダメージ)が大きくなる
- おなかの中に一生メッシュ(異物)を埋め込む必要がある
- メッシュ合併症(メッシュ露出、メッシュ感染)のリスク
よって私は、この腹腔鏡下仙骨膣固定術、優先順位の最後に位置付けています。
「性生活を重視するから、これらの短所を受け入れてもいい」という方に限り、この手術を提案するわけですね。
「メッシュを体内に埋め込みたくない」という方が大半
私の外来に受診される方の多くが、「他の病院でメッシュ手術を勧められたけど、メッシュを入れたくない」というパターンです。
メッシュ(異物)を体内に入れたくない・・・そりゃそうですよね。
この手術を提案されるのは、性生活のある、比較的若い人が中心なので・・・
「あと半世紀近く生きるつもりなのに、体内にメッシュを入れて大丈夫なの?」
「メッシュ露出とか、メッシュ感染とか、そういう問題は起こらないの?」
「将来、直腸癌とか子宮頸癌になったとき、ちゃんと手術できるの?」
そんな風に考えるわけですね。
そうやって、私のところを受診される患者さん、とっても多いです。
(というか、私の新患の過半数はこのパターン)
おまかせください(笑)
経腟手術(メッシュ無し子宮温存手術・マンチェスター手術)であれば
いずれも、メッシュを使わず、きっちり治すことができます。
いちど相談してみてはいかがでしょうか。
もっといい提案ができる可能性は高いです。
赤木一成 骨盤臓器脱外科医師