先生、質問です!
子宮脱や膀胱瘤の手術には、いろんな種類がありますよね。 これってどうやって使い分けているんですか? |
新人看護師さんの、こんな疑問に答えます。
おはようございます。
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
子宮脱膀胱瘤の手術って、いろんな方法があります。
ここでは私の使い分け基準を解説してみます。
これはあくまでも現時点における当院(赤木)の術式選択基準であって、この選択基準は医療機関によってバラバラなのが現状です。また将来的にも状況に応じて変化していくことでしょう。
そして、これらすべての術式を「日常的に」行っている医療機関は、全国的にもほとんど存在しないのが現状です。
子宮脱膀胱瘤の手術にはいろんな種類があります。
子宮脱や膀胱瘤の手術には、
③メッシュを使うおなか側からの手術(腹腔鏡下仙骨膣固定術)などがあります。
さらに、若い人にときどき行われる術式として、④マンチェスター手術があります。
このほか、当院では行っていない手術として・・・
「膣閉鎖術」とか、「膣側から子宮を取る子宮脱手術」もあります。
当院では年間300例ほどの子宮脱膀胱瘤手術を行っておりますが、約7割が経腟手術(メッシュ無し・メッシュあり)、約3割が経腹手術(腹腔鏡下仙骨膣固定術)という比率で推移しています。
①メッシュを使わない腟側からの手術
■長所
手術時間は短い(1時間ちょっと)
手術の侵襲(ダメージ)が小さい
メッシュ(異物)を使う必要がない
子宮を取る必要がない
最近ではほとんど再発しない
■短所
膣壁に傷ができるので、性交障害の可能性がある
■こんな患者さんに行っています
性生活を重視しない人であれば、原則この術式を選択。
②メッシュを使う膣側からの手術(TVM手術)
■長所
手術時間は短い(1時間ちょっと)
手術の侵襲(ダメージ)が小さい
子宮を取る必要がない
最近ではほとんど再発しない
■短所
メッシュ(異物)を使う必要がある
膣壁に傷ができるので、性交障害の可能性がある
■こんな患者さんに行っています
性生活を重視しない人で、どうしてもメッシュを使わないと再発しそうなケース(最近では少ない)
③メッシュを使うおなか側からの手術(腹腔鏡下仙骨膣固定術)
■長所
膣壁に傷ができないので、性交障害の可能性は経腟手術より低い。
■短所
手術時間が長い(3時間くらい)
おなかを切る必要がある
原則子宮を取る
おなかの中から内臓を切ったり縫ったりする必要がある
手術の侵襲(ダメージ)が大きい
おなかの中にメッシュを留置する必要がある
■こんな患者さんに行っています
性生活を重視し、そのために「侵襲が大きくなること」「おなかの中にメッシュを埋め込むこと」を容認できる人。
④マンチェスター手術
■長所
手術時間は短い(1時間ちょっと)
手術の侵襲(ダメージ)が小さい
メッシュ(異物)を使う必要がない
子宮を取る必要がない
工夫してやれば性交障害のリスクは低い
■短所
膀胱瘤が再発する可能性がある
■こんな患者さんに行っています
性生活を重視する若い人で、子宮頸部延長型の子宮脱(若い人はこのタイプが多い)で、おなかの中にメッシュを埋め込む(腹腔鏡下仙骨膣固定術)のを避けたい人。
くわしく:たまーに行っている子宮脱の手術:マンチェスター手術
当院における術式選択基準の目安
ここでは私(赤木)の、術式選択方法を示してみます。
まず経膣手術がよいか経腹手術がよいかを判断する。
まず「性生活を重視するかどうか」で、経膣手術か経腹手術を選択します。
性生活を重視しない人は経腟手術。
性生活を重視する若い人のみ経腹手術(腹腔鏡下仙骨膣固定術)
ただし「子宮頸部延長型の子宮脱」であれば、マンチェスター法も考慮できる。
経腟手術を行う場合、「メッシュを使わない or 使う」を術中に判断する。
手術を進めていって、その状況でメッシュを使うかどうか判断しています。
近年では、ほとんどのケースで、メッシュを使わずに治せるようになっています。
そして「メッシュを使わないと再発しやすい」と判断した場合に限り、最小限にメッシュを使うようにしています。
「外来診察時に判断した骨盤臓器脱の状況」と、「手術中の最終判断」は異なっていることがあるので、このやり方が一番うまくいくと考えています。
子宮脱・膀胱瘤の術式選択:実際にどんな感じで決めているか?
骨盤臓器脱の術式は、上にあげたようにいろんなものがあります。
いずれの術式にも長所短所があるため、「患者さんの状態」や「本人・ご主人の希望」に応じて、適切に使い分けるのが理想的です。
以下に例として、「私(赤木)はこんな感じで術式を選択している」という判断の過程を示してみます。
●73歳・性生活無し
性生活が無いので経腟手術で。
術中所見で、標準的な中程度の子宮脱+膀胱瘤だったので、メッシュを使わない方法を選択。
●56歳・性生活あり
今後も性生活を重視したいという意向があるため、腹腔鏡下仙骨膣固定術を選択。
●81歳・性生活無し。他の病院で従来法の手術を受け、その後膀胱瘤再発
性生活が無いので経腟手術で。
メッシュを使わないと再発しそうな膀胱瘤だったので、TVM手術を選択。
●45歳・性生活あり。子宮頸部延長型の子宮脱。
性生活を重視するので、術式を考慮する必要あり。
「おなかの中に一生メッシュを入れるのは不安」とのことだったので、マンチェスター手術を選択。
作成:赤木一成(辻仲病院柏の葉 骨盤臓器脱外科)