わたくしごとで恐縮ですが、何年か前に、息子が骨折の手術を受けました。
その時思ったことはひとつだけ。「安全確実に治してほしい」これだけでした。
術者の整形外科の先生が、長年繰り返してきた実績のある方法で、時間がかかってもいいから、安全確実に治してほしいと思ったんです。
「導入したばかりの最新技術でやってほしい」とか、「記録的な最短時間で終わらせてほしい」とか、「変幻自在の華麗な手術をやってほしい」とか、そんなことまったく思いませんでした。
そして整形外科の先生はいい仕事をしてくれて、息子の骨折はきれいに治りました。
骨盤臓器脱の手術を受ける方の願いはこれだけ。「安全確実に治してほしい」
これって、骨盤臓器脱の手術を受ける患者さんも、同じことを願っているはずですよね。
「安全確実に治してほしい」これだけです。
これまで1300件以上の骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤)手術をやり続けてきて、上記のような息子の経験をして、私の現在のスタンスはこんな感じに落ち着いています。
シンプル・ワンパターン・ゆっくりでいいから安全確実・面倒でも手を抜かない・納得いかなければやり直す。
どうですか。地味ですよね。でもこれでいいんです。
骨盤臓器脱手術では、「あの先生なら大丈夫」と思われる術者でありたい。
むやみに手を広げず、自分が安全確実に行えるやり方に徹し、それをとことん磨き上げる。
「自分がやるのが最善」だと思った症例のみ手術を請け負い、「ほかの医師に任せた方がいい」と思った場合にはその医師を紹介する。
各場面で妥協せず、納得いかなければやり直す。
地味でも、手間と時間がかかっても、ワンパターンでも気にしない。
スタッフや同僚医師から「あの先生なら大丈夫」と思われるのが最高の評価。
僭越ながら、そう心がけています。
「あの先生なら大丈夫」と「あの先生で大丈夫?」では、天と地の開きがあります。
逆に、「最新の手術」とか、「何でもできる」とか、「速い手術」とかにこだわるとどうなるか。
「最新の手術」とか「何でもできる」とかを求めて、いろいろ手を出すけど、なにひとつ熟達の域に達していない。
速く終わらせようとして、ひとつひとつのステップがいい加減になってしまう。
納得いかなくてもそのまま終えたり、必要な手順を飛ばしてしまう・・・
これって「他人からすごいと思われたい」という、医師の利己心から現れた行動ですよね。
患者さんの立場からしたら、そんなのどうでもいいことです。
「他人からすごいと思われたい」と思ってそんなことやってると、結果に表れてきます。
いずれ「あの先生で大丈夫?」と思われるようになってしまって、居場所をなくしていくんです。
「あの先生なら大丈夫」と「あの先生で大丈夫?」では、天と地の開きがあります。
・・・自戒をこめて。
赤木一成 辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科