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TVM手術:私は現在行わなくなった術式
TVM手術とは、「tension-free vaginal mesh手術」の略語です。
膣側からメッシュを留置して、子宮膀胱を吊り上げる手術です。
わが国では2000年代に導入され、一世を風靡しましたが・・・
欧米でメッシュトラブル(メッシュ露出・メッシュ感染)が問題となり、米国FDA(厚生労働省みたいなもの)から禁止令が出され、現在欧米ではほぼ行われなくなりました。
わが国でもこれにならって、(一部の施設を除いて)全国的にTVM手術は下火となっているのが現状です。
私もこの世界的な趨勢に従い・・・
2010年代後半ごろから、メッシュから離脱する試みを始めました。
試行錯誤して、メッシュを少しずつ小さくしていった結果・・・
現在ではメッシュを使わなくても治せるようになり、このTVM手術を行うことはなくなりました。
すべて、メッシュを使わない方法(メッシュ無し子宮温存手術・マンチェスター手術)で治すことができています。
TVM手術:膣からメッシュを留置する方法
メッシュの形状
ここでは例として、もっとも多く行われるタイプのTVM手術の手順について示してみます。
これはメッシュを膣の前壁側に留置するので、anterior-TVM(A-TVM)と呼ばれます。
↑図のような形の小型の医療用シート(メッシュ)を用いて行います。
真ん中の部分をメッシュの「本体」といい、ここを膣壁と膀胱の間に留置して、補強する壁の役割を果たします。
左右に伸びている部分を「アーム」といい、ここを靭帯に通してつりあげます。
TVM手術手順の概略
左:膣から骨盤臓器が脱出している状態。
中:膣壁を切開。
膣壁を数cm切開するだけでできるのが、この手術の長所のひとつ。
右:膣壁と膀胱の間をはがす(剥離:はくり)
メッシュ本体の上下を固定することで、メッシュが膀胱を覆う形になります。
右図の膀胱を覆っている青いラインがメッシュ。
糸(赤色で示す)でメッシュが固定されます。
剥離したところ(膣壁と膀胱の間の層)にメッシュを入れ、体内の奥にある靭帯にアームを通して引っ張り上げると・・・
脱出していた子宮と膀胱がハンモックのようにつり上げられ、正常の位置に戻っていきます。
アームのつっぱり加減(テンション)を調節して、つっぱりの無い状態(テンションフリー)にします。
膣壁を縫合閉鎖して終了。
(上)手術前:子宮と膀胱が脱出している状態。
(下)手術後:メッシュが留置され、子宮と膀胱が正常の位置に戻った状態。
メッシュ本体が膣壁と膀胱の間に留置され、アームが矢印方向へ引き上げられて、ハンモックのように支えられています。
経腟メッシュ手術(TVM手術):導入の経緯
ここで示したTVM手術は、今世紀のはじめ頃にフランスで開発された方法です。
20世紀に主流だった子宮脱の手術は、↑「膣側から子宮を摘出し、膣壁を縫い縮めて補強する方法」です。
「従来法」と呼ばれています。
これは長年の歴史がある方法なのですが、もともと弱った組織を使って修復を行うため、再発率が高いという短所がありました。
そのため、「弱った組織をメッシュで置き換える」というコンセプトのTVM手術が開発され、2000年ごろから国内に導入され、徐々に普及していきました。
TVM手術の長所短所
TVM手術の長所①:昔の術式と比べ再発が少ない
TVM手術は、「従来法」とくらべて再発が少なく、これは画期的な進化といえます。
TVM手術の長所②:子宮を取らずに治せる
「従来法」の手術では、子宮を取る必要があります。
その分手術のダメージが大きくなるということです。
また、女性のアイデンティティである子宮を取ることには、誰でも心理的な抵抗を持ってしまいます。
TVM手術では、子宮を取らずに治すことができるので、そのぶん体の負担が軽くなります。
TVM手術の短所①:メッシュ露出
このようにTVM手術には多くの長所があるのですが、もちろん短所もあります。
このTVM手術は、特殊な繊維でできたメッシュシートを用いて行われます。
このメッシュはPTFEという、プラスチックの一種でできています。
ときに起こるのは「メッシュ露出」といいまして、メッシュの一部が膣壁の傷あとから露出してくる合併症です。
たいていの場合自覚症状もなく、性行為をしない人であれば特に支障もないため、定期診察のときに医師が気づくというパターンが大半となります。
このメッシュびらんは約2%の頻度で起こるのですが、露出したメッシュだけ少し切除すれば治るので(日帰りか一泊でできる)、対処は難しくありません。
最近では技術が洗練され、メッシュを使う比率も少なくなってきたため、当院ではメッシュ露出をほとんど経験しなくなりました。
TVM手術の短所②:メッシュ感染
またメッシュは体にとって異物なので、「メッシュが感染(細菌が繁殖して化膿すること)を起こす可能性があるのではないか?」と思う人もいるかもしれません。
実際、メッシュ感染の報告が、文献や学会で散見されます。
私の場合、感染を起こさないよう十分配慮しているため、私が手掛けたTVM手術の中で感染を起こしたケースはありません。
メッシュは時とともに小さくなっていった
初期に用いられていたメッシュは、左上のような形をしていました(茶色)
「なるべく大きなメッシュで、膣全体をおおう」というコンセプトです。
そこから、時代は進化してゆきます。
「メッシュが必要な場所」と「メッシュが無くてもいい場所」が明らかになってきて、「メッシュが必要な場所」だけメッシュを使う方向へと進んでいきました。
↑私の場合、青→オレンジ→緑という風に、メッシュはどんどん小さくなってゆきました。
そして残ったメッシュの部位に、集中的に改良を加えた結果・・・
メッシュを全く使わずに、TVM手術と同等(同等以上)の成績を上げる方法が確立されました。
今はメッシュを使わず治せる時代
当院のいままでの骨盤臓器脱手術は、「メッシュを使う」ことが前提となっていました。
でも近年では技術が進化して、すべての経腟手術でメッシュを使わずに治せるようになっています。
それでも再発はほとんど起こっていないんです。
わたくし年間250例前後の骨盤臓器脱手術を行っていますが、いまのところ再発するのは1%くらいです。
私の場合、これから経腟手術でメッシュを用いる機会は、もう無いでしょう。
(もちろん考え方は、医師によってさまざまですけどね)
赤木一成 骨盤臓器脱外科医師