母がこんど子宮脱の手術を受けます。
手術時間はどれくらいかかるんですか? 母は80歳で心臓が弱いんだから、何時間もかかるのは困ります・・・ |
こんな疑問に答えます。
我々の施設では、年間300例を超える子宮脱膀胱瘤の手術を行っています。
いちばん多い質問の一つが、この手術時間についてです。
大腸がんとかの手術でも2~3時間でできるんだから、命にかからわない子宮脱の手術は、それより短時間で終わらせてほしいですよね。
とりあえず、冒頭の質問に対する回答をしましょう。
この方は性生活の無い高齢女性なので、膣側からの手術がおすすめです。
よって「手術時間は1時間ちょっと」ということになります。
子宮脱膀胱瘤の手術には、「膣側からの手術」と「おなか側からの手術」があります。
子宮脱や膀胱瘤の手術は、「膣側からの手術(経腟手術)」と「おなか側からの手術(経腹手術)」に分けられます。
ただしこの両者の術式を、「日常的に」行っている病院は全国的にもまれです。
前者は1時間ちょっとでできますが、後者は3時間くらいかかります。
当院では、経腟手術と経腹手術、いずれも日常的に行っています。
経腟手術の手術時間は、ほとんどすべてが1時間~1時間20分くらいにおさまります。
1時間半以上かかることはほとんどありません。
だから私の場合、手術時間を聞かれたら、「1時間ちょっとです」と答えています。
いっぽう経腹手術の手術時間は、だいたい3時間くらいでしょうか。
速い時は2時間半くらいで終わることもあるし、3時間を超えるケースもよくあります。
子宮脱膀胱瘤の手術時間は安定しています。大幅に延長することはまずありません。
わたくしが専念している、子宮脱の経腟手術を例にとって説明してみます。
先述したように、手術時間はほとんど1時間~1時間20分でおさまっています。
手術時間が1時間半を超えるのは、「痔核を同時に取った」「膣壁をがっちり追加補強した」など、オプションの追加操作を行った場合だけです。
術中のトラブルが原因で、手術時間が大幅に延長するようなことは、まず無いと言えます。
手術時間は徐々に短くなり、ここ数年はプラトーに達しています。
私の場合、手術時間は、数年かけて徐々に短くなってきました。
でもここ数年は、プラトーに達したようです。
これより短くなることはないでしょう。
丁寧に操作を行い、色々な確認作業も手を抜かずに行うと、このへんが限界だと思っています。
スピード重視の雑な手術を行って、確認作業を省略すれば、いまより15分くらい短縮することは可能です。
でもそんなことするのは意味がないと思っています。
シンプル・ワンパターン・ゆっくりでいいから安全確実・面倒でも手を抜かない・納得いかなければやり直す。
こんな手術を心がけています。
参考:地味でワンパターンだけど、安全確実な骨盤臓器脱手術を心がけています。
「性生活を重視する若い人」以外は、膣側からの手術をおすすめしています。
経腟手術と経腹手術どちらで行うべきか、これは医師によって考え方がバラバラで、統一されているわけではありません。
私の場合、「性生活を重視する若い人」以外は、すべて経腟手術をおすすめしています。
手術時間が短い
子宮を温存できる
おなかを切らなくていい
おなかから内臓を切ったり縫ったりしなくていい
体への侵襲(ダメージ)が小さい
ほとんどの場合メッシュ(異物)を使わずに治せる
再発がほとんど起こらない・・・
などがその理由です。
私が経腹手術をおすすめするのは、「性生活を重視する若い人」だけです。
膣壁に手を付けないので、性交障害を起こすリスクが、経腟手術より低いためです。
再発はどちらもほぼ0に近づいてきたので、骨盤臓器脱のタイプとかで使い分ける意味はないと最近は考えています。
赤木一成 辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科