安全確実な手術をするために。参入障壁の高い商売。今週の手術は9例。

魔女の宅急便みたいなネコがいました・・・

 

おはようございます。

辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。

 

週末なので、「一週間の骨盤臓器脱手術記録」を書きます。

患者さんを特定できないよう配慮して、数週間前の日常を描写しています。

 

手術を9例行いました。

この週は、↑子宮脱+膀胱瘤の手術を7例行いました。

 

 

また、↑直腸脱手術を2例行いました。

 

術中に想定外の事態が起こることは、めったにありません。

イメトレした通りに進行していって、だいたい予定通りの時間に終わります。

 

つねに「再現性のある手術」を行う事で、手術の精度を高く保つよう心がけています。

 

安全確実な手術=再現性のある手術

 

「再現性のある手術をしろ」

これって、私が若い頃、オーベン(上司)から繰り返し言われていたことです。

 

安全確実な手術をするためには、この「再現性」が鍵となります。

再現性のない手術だと、「行き当たりばったり、運任せ」の手術になるんです。

 

「再現性のある手術」ができるようになるには、どんな能力が要求されるんでしょう?

 

私の解釈では・・・

「理論の修得」と「正確な手の動き」の二点が必要と考えています。

 

以下、子宮脱+膀胱瘤の手術を例に挙げて、説明してみます。

 

再現性のある手術をするには①:理論の修得

 

↑これは、私がいつも行っている、子宮脱+膀胱瘤の手術です。

手術時間は、1時間15分くらいで終わることが多いです。

 

この手術って、大きく3つのパートに分けられます。

そしてさらにこまかく分けると、約30のステップに分解されます。

そしてそれぞれのステップにおいて、すべて根拠に基づいた「理詰め」の操作が行われます。

なんとなく行っている操作はありません。

 

「なぜそうするのか」

「正しく操作が行われたら、どのように見えてくるのか」

「間違った操作が行われたら、どのように見えてきて、そのまま進めるとどんなトラブルが起こるのか」

「そしてもしトラブルが起こったら、どのようにリカバリーするのか」

「当初予定してたプランが使えなかったら、どのような次善の策を行使するのか」

 

骨盤底領域の手術では、どれも数十のステップがあります。

すべてのステップにおいて、自分なりの理論を確立し、それを正確に駆使できなければいけません。

 

「外科系の修行は10年必要」と言われます。

そこまで行くには、やっぱりそれくらいかかります。

 

再現性のある手術をするには②:正確な手の動き

健さんは術者向きじゃないかも(笑)

 

さらに、「理詰めの根拠」を理解して記憶しても、それで十分ではありません。

手術では手を動かして、イメージ通りの動きを実行できなければいけないんです(当然ですね)

 

いくら理論を完璧に修得しても・・・

「正しい層を剥離(=はがすこと)できず組織がボロボロ」とか、

「操作が不正確で間違ったところを傷つけた」とか。

手術でそれじゃ困りますよね。

 

医者って、もともと勉強得意な人たちだから、理論を理解したり覚えたりするのは上手なんです。

 

でもその理論を、手術の場で正確に再現するには、別の能力が必要です。

「手先の器用さ」とか「センス」といった能力が要求されるんですね。

 

勉強得意なだけの人だと、手技系診療科(手術、内視鏡、心臓カテーテルなど)で術者を務めるのは、なかなか難しいということです。

 

だから、「自分は手先が不器用」と自覚している医学生は、最初から手技が不要な科(精神科とか、糖尿病代謝内科とか)を選択します。

己を知ったうえで進路選択するわけで、賢明な判断ですね。

 

いっぽう手先が不器用な人が、手技系の診療科を選択してしまうと、「いばらの道」の医師人生になってしまいかねません・・・

 

そうやって考えると、手術って、参入障壁の高い商売と言えるかもしれませんね。

 

赤木一成 辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科