経腟手術(子宮脱膀胱瘤)と経肛門手術(特に直腸脱)を比較する ②術後編

おはようございます。

辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科の赤木一成です。

 

経腟手術(子宮脱膀胱瘤)と経肛門手術(痔核や直腸脱)を比較する ①手術編 の続きです。

 

前回お話しした、手術中の比較に関しては、経腟手術の難しさがクローズアップされた形になりました。

 

では術後はどうでしょう。

どっちが難しいのでしょうか? 私なりの意見を書きます。

 

 

術後出血:明らかに経肛門手術のほうが怖い。

子宮脱や膀胱瘤などの、経腟手術の術後出血って、↑膣壁の創からの出血くらいしか起こりません。

この出血って、たいていは少量のじわじわした出血なので、落ち着いて対処できます。

しかも膣壁は痛みを感じない場所なので、診察室とかで無麻酔で止血可能です。

 

いっぽう直腸脱や痔核などの、肛門手術の術後出血は、これとは違います。

 

たとえば痔核の術後に起こる合併症に、↑「根部出血」というのがあります。

これって大腸肛門外科医であれば、だれでも何度も怖い目にあってます。

(最近は「ジオン」という注射薬の登場で、このリスクはだいぶ減ったんですけれども)

 

この出血って、だーっと多量に出ることがあるんです。

そして肛門は敏感な場所なので、膣側の出血のように無麻酔処置なんてできません。

緊急で手術室に運び込んで、しっかり腰椎麻酔(下半身麻酔)をかけて止血する必要があるんです。

 

術後の経過:経肛門手術の方がコントロールが難しく、想定外の事態が起こりやすい。

経腟手術の傷は、管理が容易です。

↑縫ったところは、ほとんどの場合、そのままくっついてスムーズに治っていくんです(一次治癒といいます)

 

いっぽう直腸肛門の傷は、そういうわけにはいきません。

直腸肛門は便が通る場所なので、安静を保てません。

↑きれいに縫ったつもりでも、その縫った傷は高率で開きます。

そしてそこから肉が盛り上がって治っていくんです(二次治癒といいます)

だから直腸肛門領域の手術をするときには、そこまで計算に入れた手術をしないといけません。

 

再発:経肛門手術(特に直腸脱)のほうが苦労している。

子宮脱や膀胱瘤などの経腟手術では、近年再発はほぼ0に近づいています。

私の場合、年間200例を超える経腟手術を手がけていますが、再発で再手術となるケースは「年に1人いるかいないか」という感じです。

 

いっぽう経肛門手術では、再発がなかなか0に近づいていくという感じになりません。

とくに直腸脱は難しくて、いまだに再発で苦労しています。

 

この領域の手術を始めてから20年くらいになりますが、「直腸脱の再発」って、最強の敵のひとつです・・・

 

経腟手術 vs. 経肛門手術 比較のまとめ

 

以上、まとめてみますと・・・

 

経腟手術

とっつきにくく、術中に緊張感を感じる局面が多く、さらに学びにくく教えにくい。

手術に困難を感じやすいということ。

ただし一定レベルの技術水準に到達したら、術後トラブルは起こりにくく、再発もほとんど経験しなくなる。

 

経肛門手術

一見とっつきやすく、術中に緊張する局面は少なく、経腟手術より学びやすく教えやすい。

ただしどれだけ経験を積んでも、術後トラブルや再発を完全制圧するのは難しい。

術後に困難を感じやすいということ。

直腸肛門は、膣と違って、「便が通って、しかも休めない」のが影響しているんだと思う。

 

以上です。

 

当然ですが、「簡単な分野など無い」ということですね。

独断と偏見なので、異論は多々あるかと思います。

10年後にはまた違う意見になっているかもしれませんね。

 

失礼いたしました・・・

 

赤木一成 辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科