いまだに手こずることがある、直腸脱手術のおはなし

  • 2024年1月13日
  • 2024年1月13日
  • 直腸脱

 

おはようございます。

辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の、赤木一成です。

 

今回のテーマは、難敵「直腸脱」についてです。

 

現在、骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤・膣脱)の再発に関しては、ほぼ完全に制圧できてるんですけど(再発率1%程度)・・・

 

直腸脱はいまだに、ときどき再発で苦労してます(私の場合5%くらいの再発率)

 

今回は、この辺の事情について、お話させていただきます。

よろしければ、お付き合いください。

 

直腸脱の重症度はさまざま

 

↑直腸脱には、軽症のものから重症のものまで、いろいろあります。

 

 

↑軽症の直腸脱は、手前側(肛門側)の直腸粘膜が先行して、「シワシワ」という感じで出てくることが多いです。

 

軽度のものは、直腸粘膜だけが脱出してきますが(直腸粘膜脱)・・・

ある程度進行してくると、粘膜にひっぱられて筋層も一緒に脱出してきます。

 

 

いっぽう↑重度の直腸脱では、直腸筋層が奥の方から下がってきて、「ボッコン」といった感じで大きく脱出してきます。

 

直腸脱の術式と、その適応

直腸脱の術式には、「経肛門手術」と「経腹手術」があります。

 

 

↑経肛門手術(デロルメ法など)は

「直腸の手前側(肛門の近く)」を修復固定するのが得意で、「奥の方」を修復固定することができません。

 

だから、直腸粘膜脱とか、軽度の直腸脱(だいたい脱出長5㎝以下が目安)に向きます。

 

 

 

いっぽう↑経腹手術(腹腔鏡下直腸固定術)は

直腸の「奥の方」を引っ張り上げて固定するのが得意で、「手前側」を修復固定する力は、経肛門手術に劣ります。

 

だから、拳くらい大きく脱出してくるような、重度の直腸脱に向きます。

 

術式を正しく選ぶ必要がある

術式選択が不適切だとどうなるか?

 

 

重度の直腸脱に↑経肛門手術を行って、手前側だけ修復固定しても・・・

 

奥の方は手付かずなので、あとで直腸が奥から脱出してきます。

 

 

逆に、直腸粘膜脱に↑直腸固定術を行って、筋層を奥の方に固定しても・・・

 

手前の直腸粘膜は手付かずなので、下がって出てきます。

 

 

 

と、いうことで。

 

直腸脱手術では、外来診察の時点で直腸脱のタイプを正しく判定して、適切な術式を選ぶ必要があるわけですね。

(ここに示したほかにも、いくつかの選択基準があるんだけど、マニアック過ぎるので省略)

 

でも実際には難しい・・・

でも実際には・・・

適切な術式を選択できるケースばかりではありません。

 

ワタクシたち、年間100件の直腸脱手術をやってて、それなりに苦労してます(笑)

 

典型的な「苦労するパターン」

典型的な「苦労するパターン」は・・・

「重度の直腸脱だけど、全身状態が悪くて、経腹手術に耐えられるか微妙なケース」であります。

 

 

↑経腹手術(腹腔鏡手術)は、おなかをガスで膨らませて、頭を低くして行います。

その分、肺や心臓に負担がかかりやすくなります。

さらに手術時間も、経肛門手術より長くなります。

経腹手術は、経肛門手術より、負担が大きいということです。

 

だから、全身状態の悪い高齢者では・・・

重症の直腸脱でも、(再発可能性が高いのを承知で)経肛門手術を選ばざるを得ない状況があります。

この展開、ときどきあるんです。

 

 

あとは・・・

「術前に軽症だと思ってて、経肛門手術をやろうとして麻酔をかけたら、直腸が大きく出てきた」みたいなパターンもありますね。

 

足腰わるい高齢者とかだと、ろくに診察や検査ができなくて、術前に正しい重症度を判断するのが難しいことがあるんです。

 

 

 

以上、直腸脱の手術では、術式選択で苦労することがあるというお話でした。

 

 

赤木一成

辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科