おはようございます。
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の、赤木一成です。
今回のテーマは、難敵「直腸脱」についてです。
現在、骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤・膣脱)の再発に関しては、ほぼ完全に制圧できてるんですけど(再発率1%程度)・・・
直腸脱はいまだに、ときどき再発で苦労してます(私の場合5%くらいの再発率)
今回は、この辺の事情について、お話させていただきます。
よろしければ、お付き合いください。
直腸脱の重症度はさまざま
↑直腸脱には、軽症のものから重症のものまで、いろいろあります。
↑軽症の直腸脱は、手前側(肛門側)の直腸粘膜が先行して、「シワシワ」という感じで出てくることが多いです。
軽度のものは、直腸粘膜だけが脱出してきますが(直腸粘膜脱)・・・
ある程度進行してくると、粘膜にひっぱられて筋層も一緒に脱出してきます。
いっぽう↑重度の直腸脱では、直腸筋層が奥の方から下がってきて、「ボッコン」といった感じで大きく脱出してきます。
直腸脱の術式と、その適応
直腸脱の術式には、「経肛門手術」と「経腹手術」があります。
↑経肛門手術(デロルメ法など)は
「直腸の手前側(肛門の近く)」を修復固定するのが得意で、「奥の方」を修復固定することができません。
だから、直腸粘膜脱とか、軽度の直腸脱(だいたい脱出長5㎝以下が目安)に向きます。
いっぽう↑経腹手術(腹腔鏡下直腸固定術)は
直腸の「奥の方」を引っ張り上げて固定するのが得意で、「手前側」を修復固定する力は、経肛門手術に劣ります。
だから、拳くらい大きく脱出してくるような、重度の直腸脱に向きます。
術式を正しく選ぶ必要がある
術式選択が不適切だとどうなるか?
重度の直腸脱に↑経肛門手術を行って、手前側だけ修復固定しても・・・
奥の方は手付かずなので、あとで直腸が奥から脱出してきます。
逆に、直腸粘膜脱に↑直腸固定術を行って、筋層を奥の方に固定しても・・・
手前の直腸粘膜は手付かずなので、下がって出てきます。
と、いうことで。
直腸脱手術では、外来診察の時点で直腸脱のタイプを正しく判定して、適切な術式を選ぶ必要があるわけですね。
(ここに示したほかにも、いくつかの選択基準があるんだけど、マニアック過ぎるので省略)
でも実際には難しい・・・
でも実際には・・・
適切な術式を選択できるケースばかりではありません。
ワタクシたち、年間100件の直腸脱手術をやってて、それなりに苦労してます(笑)
典型的な「苦労するパターン」
典型的な「苦労するパターン」は・・・
「重度の直腸脱だけど、全身状態が悪くて、経腹手術に耐えられるか微妙なケース」であります。
↑経腹手術(腹腔鏡手術)は、おなかをガスで膨らませて、頭を低くして行います。
その分、肺や心臓に負担がかかりやすくなります。
さらに手術時間も、経肛門手術より長くなります。
経腹手術は、経肛門手術より、負担が大きいということです。
だから、全身状態の悪い高齢者では・・・
重症の直腸脱でも、(再発可能性が高いのを承知で)経肛門手術を選ばざるを得ない状況があります。
この展開、ときどきあるんです。
あとは・・・
「術前に軽症だと思ってて、経肛門手術をやろうとして麻酔をかけたら、直腸が大きく出てきた」みたいなパターンもありますね。
足腰わるい高齢者とかだと、ろくに診察や検査ができなくて、術前に正しい重症度を判断するのが難しいことがあるんです。
以上、直腸脱の手術では、術式選択で苦労することがあるというお話でした。
赤木一成
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科