骨盤臓器脱外科医師の、赤木一成です。
当院では年間450例の子宮脱手術や直腸脱手術を行っているんですけど、高齢の方も多くいらっしゃいます。
なかには90代の方もいるんですね。
今回は高齢者の骨盤臓器脱手術についてお話しします。
目次
術前検査で問題なければ、高齢者でも手術できます。
手術を希望される場合には、まず術前検査を行います。
心臓や肺の検査、そして血液検査などを行います。
麻酔をかけても大丈夫かどうか、いろんな検査で判断するんですね。
この検査結果をもとに、私と麻酔科ドクターでダブルチェックを行い、手術可能かどうかを判断します。
よほど重大な合併症が無い限り、多くの場合は、予定通り手術が可能です。
もし問題が見つかった場合は、まずそっちの治療から
もし重大な問題が見つかった場合には、まずそれを改善しなければいけません。
心不全とか、重度の貧血とか、高齢者ではいろいろ見つかることがあるんです。
このような場合には、手術をいったん保留して、専門家に治療依頼します。
骨盤臓器脱手術が遅れても、生命に別条はないけれど・・・
心臓とかのトラブルは、命に関わりますからね。
状況が改善して、主治医のOKがでたら、手術を行うことができるようになります。
90代の高齢者でも普通に手術してますよ。
麻酔に耐えられると判断すれば、年齢に関係なく、90代でも手術をやっています。
超高齢になっても元気な人って、ときどきいるんです。
たとえば90歳近くになっても、茶道師範とか農家とかで、現役を続けてる人がいます。
こういう人ってすごいです。
60代かと思うくらい、元気でしっかりしてて、受け答えもばっちりです・・・
高齢者では、「個室入院+家族付き添い」が必要です
高齢の方に手術を行う場合、「個室入院+家族付き添い」が必要です。
術後せん妄というトラブルが起こる可能性があるからです。
↑目がらんらんと輝いて・・・
点滴の管を抜いたり、おしっこの管を抜いたり、大声上げたり、暴れたり
こうなる患者さんが、ときどきいるんです。
だいぶ昔の話ですけど、真夜中に廊下を歩き回って、↑火災報知機のボタンを押したおばあちゃんもいました・・・
ということで当院では、相当高齢の方とか、認知症がある方とかの場合・・・
個室に入院していただいて、家族の付き添いをお願いしています。
(これはたぶん全国どこの病院でも同じです)
夜勤帯は看護師少人数で運営しているので・・・
もし術後せん妄が起こったら、看護師が一人その人につきっきりになってしまいます。
そうすると人手が不足して、他の患者さんが危険にさらされてしまうんですよね。
以下余談です。患者さんに忘れられたワタクシ
以下、余談です。
こちらは、直腸脱+子宮脱で受診された、Aさん(90代)です。
超高齢者なので、手術するにはリスクが高いです。
遠方にお住まいで、心臓の病気を抱えてて、抗血栓薬(血液サラサラの薬)も飲んでます。
だから心肺系のトラブルみたいな、重大な合併症が起こる可能性もあります。
・・・でもご本人、手術を強く希望しておられます。
「命を落としてもいいから、手術してほしい」
直腸脱の方って、たいていこうおっしゃいます。
よほど苦痛が強いんでしょうね。
いっぽう子宮脱では、ここまで強く手術を希望する人はまれです。
子宮脱より直腸脱の方が、はるかにつらいんだろうなーと、私は思っています。
ということでAさん、「直腸脱だけでもいいから治してほしい」とのことでした。
でも、どうせ直腸脱の手術をするなら、子宮脱も同時に治したほうがいいですよね。
直腸脱だけ治したら、あとで子宮に腹圧がかかって、子宮脱が大きくなる可能性があるんです。
結局、本人の強い希望を受けて、頑張って手術することにしました。
麻酔科と内科の先生に術前評価を依頼して、できるだけ安全な状態で手術に臨みます。
当然、手術のリスクについて、十分説明を行っていますよ。
さてさて手術・・・
〇月△日に、手術を行いました。
直腸脱は経肛門手術、子宮脱はメッシュを使わない経腟手術です。
この手術、子宮と直腸を同時に手術するので、手間と時間がかかります。
2時間半近く要しましたが、無事手術を完了しました。
Aさん、私の最大の任務は完了しましたよ。
こんどはあなたが頑張る番ですぞ(笑)
そして翌朝の診察・・・
さてさて翌朝・・・
Aさんの診察に行きました。
がんばって手術を無事に乗り越えたAさん、経過はいかがでしょうか?
・・・・・・・・・・・・・・・
忘れられてたようです・・・
いえ、いいんですけどね。
経過が問題なければ・・・
赤木一成 骨盤臓器脱外科医師