今回は「ペッサリーで知っておくべきこと」について、お話させていただきます。
とくに高齢者がペッサリーを選択する場合には、いろんな注意事項があります・・・
↑ペッサリーって、骨盤臓器脱の方に使用する装具です。
これを↑膣内に留置して、骨盤臓器が脱出しないようにするわけですね。
目次
ペッサリーを使用する人が知っておくべきこと4選
ペッサリーは、手術を受けたくない人の「とりあえず」の対処法として選択されますが、知っておくべきことが色々あります。
①ペッサリーで骨盤臓器脱が治ることはない
まず、これです。
ペッサリーはあくまでも、骨盤臓器脱と「付き合っていく」方法で、これで治るわけではありません。
いずれ手術を受けて、根本的に治す必要があります。
②ペッサリーが合わない人も多い
ペッサリーって、全員がうまくいくわけではありません。
- 入れたらすぐ脱落したとか(重度の子宮脱とか、膣口が広い人はこうなりやすい)
- 入れたら痛くなったとか、尿が出なくなったとか。
- 入れてたら、ただれがひどくなってきて、出血おりものに悩まされるようになったとか。
実はこんなの、よくあることなんです。
ペッサリーのサイズを変えたりして対処するのですが、それでもうまくいかない場合には手術をおすすめしています。
③定期的な通院が必要
ペッサリーを留置したら、約3か月おきに通院が必要です。
(自己着脱できる人は、もっと間隔長くても大丈夫です)
私が通院時にチェックしてるのは、以下の二点です。
チェック事項:膣粘膜にトラブルが生じてないか
ペッサリーがずっと接触しているから、膣粘膜に炎症が生じてくる人がいます。
膣粘膜がきれいな人なら、まだ当分の間は、ペッサリーを続けても問題ありません。
でも高頻度で、↑膣粘膜が炎症を起こしたり、ただれたりする人がいます。
ペッサリーのサイズを変えたり、薬を使ったりして様子を見るんですけど、それでも改善しない人がいます。
この場合「もうペッサリーは限界」ということなので、手術をおすすめしています。
チェック事項:ペッサリーのサイズは適切か
ペッサリーが大きすぎると、上記の「膣粘膜のトラブル」が起こりやすくなります。
ペッサリー交換の時に、なかなか抜けなくて強い痛みが生じることもあります。
いっぽう、ペッサリーが小さすぎると、容易に脱落するようになります。
だから通院のたびに、適切なサイズのペッサリーを考えて、留置することになります。
また、ペッサリーを色々と試してみても、容易に脱落する人がいます。
重度の子宮脱の人とか、膣口が広がっている人は、こうなりやすいですね。
この場合も、もうペッサリーは限界ということなので、手術をおすすめすることになります。
④ペッサリーを一生続けるのは無理
定期的な通院が必要なんだから、年を取るとともに大変になってきます。
施設入居となったり、車椅子生活となったら、通院が大変ですよ。
いっぽう通院が大変だからと、ペッサリーを入れっぱなしにしてると・・・
膣壁がただれてきて(矢印)、出血、おりもの、異臭などに悩まされることになります。
ひどい場合にはペッサリーが膣壁にめりこんで、取り除く手術が必要となるケースもあります。
そして・・・
ペッサリーで10年15年と粘って、いずれ年をとって歩くのが難しくなってくる。
自分で通院できなくなり、娘さんが仕事を休んで、1日がかりで病院に連れてくる。
家族の負担が大きくなって、娘さんも限界に達して、手術を受けるように説得されて、ようやく手術を決意する。
でもその頃には全身状態が悪くなってて、手術のリスクが高くなっている・・・
じつはこれって、実際にあることなんです。
ペッサリーで粘るのは時間的にも経済的にも損
ペッサリーを選択した場合にはどうなるか?
通院に要する時間を損する
3~4か月に一回、病院に行ってペッサリー交換をする必要があります。
骨盤臓器脱で悩む方は、60代後半~70代の方が多いです。
その年代の方にとって、普通に生活できる日々は貴重なはずです。
その貴重な日々の一部を、通院に費やすことになります。
長期的には金銭面でも損する
費用だってそうです。
診療代+交通費で、一回3000~4000円かかるとしたら、年に1万円です。
10年で10万円、15年で15万円。
でも、早目に手術を受けていれば、10万円もかからずに治せてたはずです。
10年も15年もペッサリーで粘って、そこから手術を受けることになったら、それまでに要した通院時間と費用が無駄になるんです。
ペッサリー長期留置してたら手術リスクが上がる
「ペッサリーをずっと留置してたら、手術の時になにかデメリットがあるの?」
これって、時々いただく質問です。
答えはもちろん、YESです。
「私が手術やりにくい」だけならいいんですけど・・・
↓以下の3つはすべて、合併症や再発に直結するんですよね。
子宮が持ち上がって手術が難しくなる。
まず、これです。
骨盤臓器脱の経腟手術って、↓子宮を手前に引き出した状態で行います。
↑通常のケースでは、子宮を手前に引き出せるので、安全に手術を行えるのですが・・・
ペッサリーを長期留置していた人では、↑子宮を十分に引き出せず、手術操作が難しいことがよくあります。
その結果、予定通りの修復が行えず、再発する恐れが出てきます。
まあ実際には、(苦労してブツブツ言いながらもw)全員きちんと手術をやり遂げてるんですけどね。
「でも子宮が下がってこないんだったら、膀胱瘤だけ修復すればいいから楽なんじゃないの?」と思う人も、いらっしゃるかもしれませんね。
いえいえ。膀胱瘤だけ修復するのって、逆に難度が高いし、再発もしやすいんですよ・・・
手術の時に膣壁が裂けやすい。
↑健康な膣壁は、薄くてしなやかで、切ったり縫ったりするのも容易にできます。
↑いっぽうペッサリーを長期留置している方だと、膣壁がもろくなってて、ちょっと引っ張っただけで裂けやすくなっています。
もしそうなったら、膣壁が傷だらけになってしまいます・・・
癒着して剥離が難しい。出血しやすい。
↑ペッサリーが膣壁を長期圧迫することで、癒着が生じてきます。
それでも大半のケースでは、正しい層を剥離(はがすこと)できるんですけど・・・
たまーに、↑癒着が強くて苦戦するケースがあるんですよね。
当然ながら、臓器損傷のリスクも高くなってきます。
あと、術中に出血しやすく苦戦するケースって、たいていペッサリー長期使用者です。
ペッサリーは借金の先送り。「期間限定」が大事です
じゃあどうすればいいの?ということになりますね。
過去の記事で何度も言及してますが・・・
ペッサリーは惰性で延々と使い続けるのではなく、期間限定としましょう。
「ペッサリーを使っちゃだめ」と言ってるんじゃないんです。
「いまは仕事が忙しいから、半年か1年ほどペッサリーでつないで、仕事が落ち着いてから手術を受けたい」
こんな感じで計画的に、期間限定でペッサリーと付き合うのが正解です。
「手術がイヤだからペッサリーがいいかな・・・」
そしてペッサリーで何年も粘った挙句
「そろそろ限界になってきたから手術を受けようか・・・」
みたいに、行き当たりばったり(失礼)的な使い方が良くないということですね。
そもそも、↑一生ペッサリーを続けるなんて無理ですからね。
だったら、早いうちに治してしまった方がいいと思いませんか?
赤木一成 骨盤臓器脱外科医師