骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
今回は、「骨盤臓器脱手術に適したタイミング」について、お話させていただきます。
目次
骨盤臓器脱手術に適したタイミングはいつ?
「手術に適したタイミング」とはいつ頃なのでしょうか?
まず考慮するのは、「本人の希望」
まず考慮するのは、「本人の希望」ですね。
ある程度、子宮が脱出していても
本人がそんなに苦痛を感じてなくて、手術が必要と思ってないのであれば、手術を急ぐ必要はありません。
一方、それほど大きく脱出してなくても
本人が気にして、手術で治したいと考えているのなら、それは手術に適したタイミングだと言えるんです。
みなさん、お仕事や介護とかで、なかなか時間がとれないでしょうから・・・
その様な場合には、そちらの都合を優先させて構いません。
医師サイドから見た「手術のタイミング」
ただ、「まず本人の希望を考慮」といいましても・・・
医師サイドから見て「手術に適したタイミング」というのはあります。
早すぎると手術がやりにくい。
あまり脱出してこない段階(ステージ1の段階)では、手術がやりにくいです。
骨盤臓器脱の経腟手術って、子宮膀胱を手前に引っ張り出した状態で行います。
だから、あまり脱出してない状態だと、手術難度が高くなるんですね。
もちろん、膀胱や直腸を損傷するリスクも高くなります。
この段階では、骨盤底筋体操をおすすめしています。
将来もっと下がってきてから、手術を受ければいいんです。
遅すぎても色々こまったことが・・・
逆に、手術を受ける時期が遅すぎ重症化しても(ステージ4の段階)、いろいろ困ったことが生じます。
①手術の難度とリスクが高くなる
まず、手術の難度とリスクが高くなります。
大きく脱出した骨盤臓器脱では、膣壁がゴワゴワに分厚くなってて、癒着してることが多くなります。
この状態だと、手術で剥離(はがすこと)操作を行う時に、出血が多くなるんです。
しかも癒着しているから、膀胱や直腸を損傷するリスクも高くなります。
②術後の痛みも強くなる
また、術後の痛みも強くなります。
子宮が大きく脱出してるから、その分しっかり持ち上げて、がっちり固定する必要があるからです。
③術後尿失禁も起こりやすくなる
さらに、術後尿失禁も起こりやすくなります。
大きく脱出していると、そのぶん尿道がダメージを受けてるから、術後に尿が漏れやすくなるんです。
④水腎症で腎機能が悪化していく
あと、重症化することでもっとも危険なのが、↑「水腎症」の問題ですね。
重症化して尿が出なくなってくると、腎臓に負担がかかって、水腎症という状態になります。
最悪の場合、腎不全に陥りかねません・・・
このような状態になったら、早目の手術が必要です。
手術を早く受ける必要がある人はどうする?
ただ、「早目の手術が必要」と言っても、なかなか対応が難しいのが現実です。
私の場合、手術待ちが約1年先になっているので、早めに手術してあげることが難しいんです。
でもたまーに、骨盤臓器脱を何年も放置して重症化して、
「いますぐ手術してほしい」と希望される方がいらっしゃるんですよね・・・
このように、早く手術する必要がある場合には
他の病院を紹介することもあります。
希望する術式で手術してもらえる保証はないですが、腎不全になるよりマシではないかと・・・
ここで大御所の名言
ここからは余談です。
10年近く前の話ですけど、骨盤臓器脱学会の場で、とある大御所先生がおっしゃった名言があります。
骨盤臓器脱は果物と同じで、「適した収穫期」がある。早すぎても遅すぎてもよくない。
早すぎると手術がやりにくい(収穫するにはまだ早い)
適切な時期に手術しよう(収穫に適した時期ですね)
遅すぎてもよくない(もっと早く収穫したほうがよかったですね)
「上手いこと言うなあ・・・」と思った次第です(笑)
赤木一成 辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科