直腸脱の手術は、経肛門手術(デロルメ法・三輪-Gant法)と経腹手術(直腸固定術)に分けられる。
直腸脱の大半は高齢者に生じるので、侵襲(ダメージ)の少ない経肛門手術が選択されることが多い。
経腹手術は経肛門手術より侵襲が大きい手術なので、これを行う状況は限定される。
ここではわれわれの施設で日常的に行われている、代表的な3つの術式について解説する(デロルメ法・三輪-Gant法・直腸固定術)
■長所
全身麻酔が不要で肛門側から行えるので、侵襲(ダメージ)が少なく高齢者に向いた術式。
長年にわたる改良により、経肛門手術のなかではもっとも再発の少ない方法となっている。
■短所
すべての直腸脱に行えるわけではない。
「大きく脱出する直腸脱」や、「過去に経肛門手術を繰り返して癒着している直腸脱」には行えないことがある。
粘膜を切って縫うので、一定の割合で出血や感染を起こすリスクがある。
■長所
全身麻酔が不要で肛門側から行える。
もっとも手技が簡便で、侵襲(ダメージ)が少ない術式。
日本ではもっとも多くの施設で行われている。
■短所
再発率はデロルメ法よりやや高くなる。
経肛門手術の際にデロルメ法が行えないようなケースで、この三輪-Gant法が選択されることがある。
(私の知る限り)日本独自の発展をとげた国内限定の術式。欧米では行われていない。
■長所
「全身麻酔のリスクが低い若い人」で、かつ「大きく脱出する直腸脱」
または
「経肛門手術を行っても再発を繰り返す直腸脱」
このような状況では、直腸固定術が選択される。
■短所
全身麻酔が必要なので、高齢者では肺や心臓に負担がかかる。
おなかを切って内臓を切ったり縫ったりする必要があるので、手術時間が長くなる。
これらの理由により、経肛門手術と比べて手術の負担が大きくなる。
その割には、経腹手術と経肛門手術の成績はどちらがすぐれているか、まだはっきりした結論が出ているわけではない。
われわれの施設における術式選択基準の目安
高齢者では、体の負担が軽い経肛門手術(デロルメ法・三輪-Gant法)を選択することが多い。肛門がゆるい場合には、ティールシュ法を付加する。
軽度の直腸脱であれば、年齢にかかわらず経肛門手術で良好な結果が得られる。
経腹手術(直腸固定術)は、「全身麻酔のリスクが低い若い人」で、かつ「大きく脱出する直腸脱」の場合に選択している。
直腸脱の術式を比較する:解説
直腸脱の手術には、これまでにじつにいろいろな方法があったそうです(数十種類はあるそうです)
これは、決定版となる術式がなかなか確立されなかったことを意味します。
この中で、長い年月をかけて生き残ったものが、ここに示した数種類の術式です。
実際には、ここにあげたすべての術式を「日常的に」行っている病院は、ごく一部の専門的な医療機関に限られるのが現状です。
私の知る限り、全国に数施設くらいしかないと思います。
われわれの施設では年に100例を越える直腸脱手術を行っており、経肛門手術が約70%、経腹手術が約30%くらいの比率になっています。
どの術式を選択するかは施設によって考え方が異なっており、施設によってバラバラなのが現状です。
直腸脱の大半は高齢女性に生じるので、われわれの施設では、高齢者にはまず侵襲(ダメージ)の小さい経肛門手術を選択することが多くなっています。
経肛門手術には、上にあげたデロルメ法・三輪-Gant法・ティールシュ法などいろいろなものがありまして、患者さんの状態にあわせて最適な術式を選択していくことになります。
作成:赤木一成(辻仲病院柏の葉 医師)