おはようございます。
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
いきなりですが・・・
フランスの高名な外科医の言葉に、こんなのがあります。
“Il faut continuer”
「続けなければいけない」という意味です。
「勝たなければいけない」でもなく、
「極めなければいけない」でもなく・・・
「続けなければいけない」です。
「それって別に難しくないのでは?」と、思われるかもしれませんね。
私も若手の頃は、そう思ってたんですけど・・・
手術人生が四半世紀を超えると、この言葉の重み、ひしひしと実感として分かってきます。
術者を続けていくために超えるべき多くのハードル
この仕事を長年続けていると、「やり続けること」が、最も大変なことだと思い知らされます。
もちろん最初は、「独立した術者」になるための、越えるべきハードルがあります。
そして幸運にも「独立した術者」になれたら・・・
こんどは続けていくために、いろんなハードルを越え続けなければいけません。
以下、「私自身の経験」や「周囲の医師」で見聞きしてきたいろんなハードルを、お示ししようと思います。
そもそも術者に向いてない
術者って、向き不向きがあります。
「技術面の適性」はもちろんだけど、同じくらい大事なのは「性格面の適性」です。
真面目で誠実な奴が向いてるのかと言うと、実際には・・・(以下略)
十分な執刀経験を積めず、一人前になれずに40代になってしまう
これは心臓外科とかで顕著ですね。
どれだけ努力しようが、術者でバリバリやれるのは、同世代の1割以下とか聞きます(可哀想)
医局人事に振り回されて嫌になる
これ、大学医局に所属している医者であれば、誰でも経験してるでしょう。
転勤した地で、妻子がやっと慣れてきて友達できたら、また次の年に遠い場所へ行かされる。
泣く妻子を前にして、「術者への道」より「妻子の幸福」を選ぶ医師がいても、誰も責めることはできません(まあ、単身赴任という手もありますが)
ちなみにワタクシ、辻仲病院に来て以来22年間、転勤ございません。
医局人事は他人事です(笑)
薄給に耐えられなくなる
これも大学病院で顕著ですね。
特に大学院生とかだと、無給どころか学費払ってるのに、病棟とか外来とかやらされて夜や休日も呼ばれたりするという。
医療系でない人にこの話しても、まあ信じてもらえません。
「現代の◯隷制度やな」って言われたり(笑)
激務に耐えられなくなる
これは急患急変が多い分野(消化器外科とか脳外科とか)にありがちですね。
さいわい骨盤臓器脱外科は、急患急変がほぼありません・・・
スタッフや同僚からの信頼を失い居場所をなくす
これは本人の資質の問題ですね。
手術で結果だすのは当然として・・・
トラブった時の対応も、信頼を得るのに大事な要素です。
逃げたり隠したり他人のせいにしたり同じトラブル繰り返してたら、周囲の信頼を失って、居場所をなくしていきます。
クレームや訴訟で心が折れる
私が知る限り
訴えられた外科医って、「あの医者ならそうなるよね」というケースじゃなくて・・・
「え!あの腕のいい人格者の先生がなんで?」みたいなケースだったんですよね。
こんな先生の方が、リスク高い症例を次々と依頼されてしまうから、こうなりやすいんだろうと思ってます。
だから、腕を磨くだけじゃなくて
ほかにもやるべきことが(以下略)
時代についていけなくなる
これは消化器内科を見てると、顕著に感じます。
毎年毎年新しいデバイスが登場してて、「大変そうだな―」みたいに、他人事で見てます(笑)
骨盤臓器脱外科の進化速度は、消化器内科ほどではないですね。
ロボットが最近話題ですけど、骨盤臓器脱手術でロボット使うメリットって(以下略)
老眼
これって昔の外科医だと、引退の最大の理由だったそうですが・・・
いまはルーペとか鏡視下手術とか進化して、老眼の問題はかなり解決されてきました。
ちなみにワタクシ、なぜか老眼まったくありません(親に感謝ですね)
情熱失って燃え尽きる
ワタクシこの仕事、生涯続けていきたいので・・・
「ストレスを極力回避する」ことを重視してます。
仕事が嫌になったら台無しですからね。
以上です。
さいわい四半世紀以上にわたって、手術を生業とすることができましたが・・・
これって運の要素も大きかったんだなーと、あらためて実感した次第です(笑)
赤木一成
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科