子宮脱・膀胱瘤などの骨盤臓器脱に対する手術方法は、大きく三種類に分けられます
・従来法(メッシュを使わない経腟手術)
・TVM手術(メッシュを用いる経腟手術)
・腹腔鏡下仙骨膣固定術(メッシュを用いる経腹手術)
ここでは参考として、私(赤木)が手掛けてきた1200例超の骨盤臓器脱手術(従来法・TVM手術)成績について、Q and A形式で開示してみます。
手術の安全性は?
近年では99%の方が、大きなトラブル無くほぼ予定通り退院できています。
「100%安全で、合併症も再発も可能性ゼロ」の手術はこの世に存在しませんが、長年にわたって術式の改良を積み重ねてきた結果、近年では手術の安全性は飛躍的に高くなっていると言えます。
入院中には、「クリニカルパス」という表に準じて、術後の患者さんの管理を行います。
クリニカルパスとは、手術の前後に用いられるスケジュールのことです。
スケジュール通りに順調に経過すれば「クリニカルパス達成」、合併症が起こってスケジュール通りに経過しなければ、「クリニカルパス脱落」となります。
2019年1月~12月の間に私が行った骨盤臓器脱手術(従来法・TVM手術)208例のうち、207例はクリニカルパス達成できており、クリニカルパス脱落となったケースは1例でした。
これは私の骨盤臓器脱手術を受けた患者さんのうち99%以上の方が、大きなトラブルなく経過し、ほぼ予定通り退院したことを意味します。
入院中に生じるトラブルの圧倒的多数は、「膀胱炎」「便秘」「残尿がやや多い」といった軽微なものであり、いずれも内服薬で治ります。
重度のトラブル(多量の出血・臓器損傷など)が起こる可能性はきわめて低いと言えます(いずれも数百人に一人の割合)
痛みに関しては、術後数日間は多少の痛みを感じる人がいますが、これは退院する頃にはほぼ消失します。
再発率はどうか?
私の場合、最近は年間200件以上の子宮脱膀胱瘤手術を手がけています。
このうち、再発で再手術になるケースは、年に1例あるかないかという感じです。
再発率ゼロの骨盤臓器脱手術はこの世に存在しないので、「必ず100%一発で治します」と約束することはできません(これは全国どこの施設でも同じです)
もし再発した場合には次の手を打つことで、最終的に全員の方を治すことが可能と言えます。
長期的なトラブルは起こらないの?
メッシュを使わない手術(従来法)を行った場合には、再発以外の長期的トラブルはまず起こらないと言えます。
いっぽうメッシュを用いる手術(TVM手術・腹腔鏡下仙骨膣固定術)を行った場合には、長期的トラブルとして、「メッシュの膣壁露出」および「メッシュ感染」を生じる可能性があります。
「メッシュの膣壁露出」とは、体内に留置したメッシュが膣壁からわずかに露出してくる合併症です。発生する可能性は約2%です。
これはメッシュの露出した部分だけ小さく切り取れば治ります。
近年では技術が洗練され、メッシュを使用する頻度も減ったので、メッシュ露出を目にする機会はとても少なくなりました。
また、メッシュが感染を起こす可能性はまずありません(今のところゼロ)
排尿状態の変化について
①術前から有していた排尿異常について
骨盤臓器脱の患者さんの多くは、膀胱が下がって尿道が圧迫されているため、「尿が出にくい」「残尿感」「頻尿」などの症状を有していることがよくあります。
これらの症状のほとんどは、手術で膀胱の位置が正常に戻ることで軽快します。
②術後に生じる尿もれについて
もともと尿道の締まりがゆるい人の場合には、手術で尿道の圧迫が解除されることで、術後に「尿が漏れやすくなった」と感じることがあります。
これは手術の合併症で尿が漏れやすくなったのではなく、「もともと尿道のしまりがゆるくて尿が漏れやすい体質だった」ということです。
尿が漏れやすくなった場合には、治療することで治せます。
作成:赤木一成(辻仲病院柏の葉 医師)