おはようございます。
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
今回は、「性生活がある人の骨盤臓器脱手術」ついて、お話させていただきます。
よろしければ、お付き合いください。
性生活の有無で術式を選択する
当院で「日常的に」行われている骨盤臓器脱手術は、3種類あります。
①経腟子宮温存メッシュ無し手術
②マンチェスター手術
③腹腔鏡下仙骨膣固定術
この三つです。
(この三つの術式の進化に伴い、当院ではTVM手術〔経腟メッシュ手術〕・従来法〔子宮を取る〕・膣閉鎖術〔膣を縫い閉じる〕は淘汰された)
私の場合、まず「性生活の有無」から、術式選択を考慮していきます。
性生活の無い人であれば、術式はこれ一択。
これは、「メッシュ無し子宮温存手術」と言いまして、
当院で大半の方に行われている手術です。
- 侵襲(ダメージ)が小さい
- 子宮を温存できる
- 手術時間が短い(1時間くらい)
- 再発が少ない(1%程度)
- あらゆるタイプの臓器脱を治せる
- メッシュ(異物)が不要
などなど、長所が多い術式です。
性生活の無い人であれば、術式は「これ一択」だと、私は思っています。
この術式の唯一の短所は、「性交障害が起こりうる」ことですね。
↑膣壁の縦方向に傷ができるので、性交時に痛みや違和感を生じるわけです。
だから、性生活がある人には、この術式は向きません。
性生活がある人では、二つの選択肢がある。
性生活がある人の選択肢は・・・
②マンチェスター手術
③腹腔鏡下仙骨膣固定術
この二つになります。
どちらも、「膣壁縦方向の傷」を回避できるので、「性交障害リスクを低くできる」という長所があります。
このような場合、②③から術式を選択することになりますが・・・
私はまず「②マンチェスター手術ができないか」と考えます。
マンチェスター手術
40代くらいの若い人の骨盤臓器脱は、子宮頸管延長型のタイプが多いです。
子宮頸管が「こん棒」のように伸びてて、膀胱瘤直腸瘤は軽度。
こんなタイプです。
このような場合には、このマンチェスター手術のよい適応となります。
- 侵襲(ダメージ)が小さい
- 子宮を温存できる
- 手術時間が短い(1時間くらい)
- メッシュ(異物)が不要
こういった長所があります。
さらに、↑上手く工夫すれば膣壁に縦方向の傷ができないので、性交障害のリスクを小さくできるというのも長所です。
これまで50人以上の方にこの手術を行ったのですが、性交障害で苦情をいただいたケースは、いまのところありません(今後も絶対ないとは言えませんけどね)
短所としては、膀胱瘤直腸瘤の修復をガッチリ行う事ができないので、膀胱瘤直腸瘤の再発可能性があるということですね(これまでに1例で、膀胱瘤の再発あり)
だから、↑膀胱瘤や直腸瘤が大きいケースでは、この術式は選択肢となりません。
腹腔鏡下仙骨膣固定術
性生活を重視する人で、膀胱瘤や直腸瘤が大きいタイプの骨盤臓器脱。
このような場合には、①も②も行えないので、③腹腔鏡下仙骨膣固定術の適応となります。
①②の手術と比べると・・・
- 手術時間が長い(3時間くらいかかることが多い)
- 頭を長時間低くするから心臓(心機能負担増)・肺(無気肺)・脳(脳動脈瘤)・眼(緑内障)に負担がかかる
- おなかの中から内臓を切ったり縫ったりする
- (原則として)子宮を取る
- だから手術の侵襲(ダメージ)が大きいということ
- おなかの中に一生メッシュ(異物)を留置することになる
- だからメッシュ合併症(メッシュ露出、メッシュ感染)のリスクがある
などの点が劣っています。
だから私の中では、この腹腔鏡手術、優先順位は「最後」に位置付けています。
(あくまでも私〔当院〕のスタンスです。病院によって得意とする術式は様々だから、考えが異なる先生もいらっしゃることでしょう)
ただし↑膣壁にまったく手を付けないので、「性交障害リスクが低い」という点に関しては、この術式がベストです。
でもですね・・・
この手術を受けても、5年とか10年くらいで性生活を卒業するかもしれない。
その期間の「性生活の質」を保つためだけに、体内に一生メッシュを埋め込むことを容認できるか?
それは本人とご主人の考え次第です。
正解があるわけではありません。
以下は私の提案ですが・・・
性生活がある間は、ペッサリー自己着脱でつないで(ペッサリーを外せば性行為は可能)
性生活を卒業したら、「①メッシュ無し子宮温存手術」を受けたらどうか。
さんざん迷っているカップルには、このような話をすることも、ときどきあります。
赤木一成
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科