直腸瘤のメッシュ手術(TVM手術)

  • 2018年12月28日
  • 2021年11月27日
  • 直腸瘤

直腸瘤のメッシュ手術(TVM手術)

TVM手術とは、直腸瘤の術式のひとつ。

メッシュ本体を膣と直腸の間に留置し、アームを靭帯に固定してつり上げて補強する。

 

近年、メッシュを使わない経腟手術の技術が進化したため、メッシュ使わずにほぼすべての直腸瘤を治せるようになっている。

よって近年当院では、このTVM手術はほとんど行われなくなった。

 

参照:骨盤臓器脱手術で必ずメッシュを使うの? 

 

TVM手術の実際

直腸瘤に対するメッシュ手術(TVM手術)について。

膣後壁側にメッシュを留置するので、posterior-TVM(P-TVM)と呼ばれる。

 

↑図のような小型の医療用シート(メッシュ)を用いる。

真ん中の部分をメッシュの「本体」といい、ここを膣と直腸の間に留置して、補強する壁の役割を果たす。

左右に伸びている部分を「アーム」といい、ここを靭帯に通してつりあげる。

 

左:膣壁を切開して開く

右:膣壁と直腸の間をはがしていく(剥離:はくり)

 

↑膣壁と直腸の間にメッシュを留置する。

 

 

↑メッシュの「アーム」を靭帯に通してつり上げる。

アームのつっぱりが手頃なテンションになるよう調節する。

膣壁を縫合閉鎖して終了。

 

↑膣と直腸の間にメッシュ(青いライン)が留置され、膣と直腸の間の壁が補強されることで、直腸瘤が治る。

 

↑メッシュの「本体」が膣と直腸の間に留置され、「アーム」が靭帯を貫通してハンモックのようにつり上げている。

 

解説

TVM手術とは

この直腸瘤のメッシュ手術は、TVM手術(Tension-free Vaginal Mesh)と呼ばれています。

2000年ごろにフランスで開発され、我が国にも普及してきた術式です。

 

メッシュを用いて脱出する臓器を修復する方法は、元々そけいヘルニア(脱腸)の手術では長年行われてきました。

これを直腸瘤などの骨盤臓器脱の治療に応用したのが、ここで紹介するメッシュ手術になるわけです。

 

TVM手術の長所

このTVM手術では、直腸と膣の間にメッシュを留置して、さらに左右のアームを靭帯に固定してつり上げることで直腸と膣の間の弱った壁を補強します。

直腸と膣の間の弱った部位を広範囲にメッシュでカバーし、さらにアームの補強も加わるので、従来の経膣手術の方法と比べてさらに良好な成績が期待できます。

 

TVM手術の短所

TVM手術で用いられるメッシュは、体内にとっては異物です。

だから一定の頻度で、メッシュ関連のトラブルが起こる可能性があります。

 

時々起こるのが、メッシュ露出というトラブルです。

メッシュが膣壁から露出してくることがあるんです。

メッシュ露出が起こった場合、露出している部分のメッシュを小さくカットすればよくなるので、対処自体はむずかしくありません。

 

またメッシュが感染する可能性もありますが、私の経験では、これまでメッシュ感染が起こったケースはありません。

 

近年ほとんど行われなくなった

このTVM手術、再発もほぼ無く、メッシュによるトラブルもそれほど問題にならなかったので、定番術式の一つとしてよく行われていました。

 

そして時代とともに、状況が変わっていきます。

10年にわたる技術改良により、TVM手術で用いるメッシュが徐々に小さくなっていきました。

そして最終的にメッシュを使わなくても、ほとんど再発無く治せるようになったんです。

 

その結果、近年当院では、このTVM手術が行われる機会はほぼ無くなっています。

TVM手術は、「メッシュを使わないと再発しそうな一部のケース」に限定して行われています。

 

ワタクシ的には、「メッシュは使っても使わなくてもちゃんと治るんだけど、メッシュを使わずに済むならそれに越したことは無いよね」という感じです。

 

作成:赤木一成(辻仲病院柏の葉 骨盤臓器脱外科医師)