イメトレ中です・・・
おはようございます。
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
週末なので、「一週間の骨盤臓器脱手術記録」を書きます。
患者さんを特定できないよう配慮して、数週間前の日常を描写しています。
手術を8例行いました。
この週は、子宮脱膀胱瘤の手術を7例行いました。
また、腰椎麻酔(下半身麻酔)で行える小手術を、1例行いました。
先週に引き続き、今週も難しい症例が多かったんですけど、手術自体は全員安全に終えることができました。
術後も特にトラブル無く、全員予定通りの退院です。
手術の重要操作:剥離(はくり)について。
なぜか最近、手術が難しいケースが続いてるんです。
原因はたいてい、「癒着」です。
「ペッサリー長期使用」とか「過去の手術」によって、癒着が生じてるんです。
癒着していると、剥離(はくり)操作の時に苦労させられます。
剥離って、要は「はがす」操作のことです。
「正しい層の剥離」の積み重ねで手術が成立する。
↑これは、骨盤臓器の断面図です。
たとえば膣壁は、直腸や膀胱と隣り合っています。
隣り合ってる組織は、それぞれユルい状態でくっついているので、その「ユルい層」を見つけて剥離する必要があります。これを↑「剥離層」と言います。
正しい剥離層に入ることができたら、出血なくスルスルと剥離が進んでいきます。
膀胱瘤の剥離を例にあげますと・・・
たとえば、↑膀胱瘤手術を例にあげますと・・・
膀胱の真ん中の黒いラインのところから切開して、剥離操作を進めていきます。
膀胱瘤の表面は、膣粘膜でおおわれており、一番奥に膀胱壁があります。
そしてその間にもいくつかの層があって、複雑な構造をしています。
骨盤臓器脱の手術では、これらのいろんな層を、正確に剥離していく技術が要求されます。
ひとつの層だけ剥離できればいいんじゃなくて、術式に応じていろんな層を自在に剥離できなければいけません。
でも必ずしも剥離がスムーズにいくとは限らない
でも、全員がスムーズに剥離できるとは限らないんですよね・・・
そう。↑癒着してると、剥離に苦戦することがあるんです。
正しい層を剥離できず、間違った層を進むとどうなるか?
まず、いつもの「正しい光景」とは異なる、「いつもと違う光景」が出現します。
この「いつもと違う光景」を認識できるようになるには、相応の経験が必要です。
「正しい光景」をたくさん経験してないと、「いつもと違う光景」にも気づかないんだから、当然ですよね。
そして・・・
「いつもと違う光景」に遭遇したら、「この剥離層はおかしい」と気づいて、なんらかの手を打たなくてはいけません。
そのまま進めていくと、出血したり、膀胱損傷を起こしたり、修復に必要な組織がボロボロになります。
軌道修正とリカバリープラン
「この剥離層はおかしい」と気づいたらどうするか?
まずやるべきことは、軌道修正です。
正しい剥離層を見つけて、そこへ入り直すということですね。
たいていの場合、この正しい剥離層に入り直すことができます。
でも癒着が強いと、それもうまくいかないことがあります。
正しい層が破壊されてて、そもそも正しい剥離層が存在しないこともあるんですよね。
その場合にはどうするか?
このような時には、そのまま強引に剥離を進めてはいけません。
あらかじめ用意しておいたリカバリープランがあるので、そちらに移行します。
1800例超の経験をもとに熟成を重ねた↑フローチャート(ぼかしています)がありまして、そのプランに従って次善の策を行使するわけです。
このフローチャート、手術のたびにイメージトレーニングでおさらいしてるので、手順はすべて頭に入っています。
骨盤臓器脱手術は多くのステップで構成されていますが、すべてのステップにおいて、リカバリープランが用意されています。
ということで、ひとつのやりかた一本槍だと、通用しないケースがあるということですね。
あらゆる状況に対応できるようになるには、やっぱりそれなりの修業期間が必要なんです。
今日はちょっとマニアックでしたかね。
失礼しました・・・
赤木一成
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科