おはようございます。
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
週末なので、「一週間の骨盤臓器脱手術記録」を書きます。
患者さんを特定できないよう配慮して、数週間前の日常を描写しています。
手術を7例(他チームが2例)行いました。
この週は、まず子宮脱膀胱瘤の経腟手術を5例行いました。
また、直腸脱の経肛門手術(デロルメ法)を1例行いました。
さらに、子宮脱+直腸脱の手術を1例行いました。
今週ワタクシは、7例の手術を行っていました。
これらはすべて、下から行う手術になります。
この「下から行う手術」って、↑患者さんの股間側から行う手術です。
上に記した、経腟手術とか、経肛門手術とかは、この「下から行う手術」になります。
さらにこの週は、腹腔鏡手術チームが、子宮脱膀胱瘤手術(上図左)を1例、直腸脱手術(上図右)を1例行っていました。
これは、「おなか側から行う手術」です。
「経腹手術」といいます。
この経腹手術、腹腔鏡というカメラを使って行います。
おなかに1㎝程度の小さい穴を何個かあけて行うので、おなかの傷は目立ちません。
ということで、子宮脱膀胱瘤も、直腸脱も、「下から行う手術」と「おなか側から行う手術」があるということですね。
当院ではこれらすべての手術を、日常的に行っています。
「じゃあこれらの術式を、どうやって使い分けるの?」という疑問が、当然起こりますよね。
ということで今回は、当院の基準を解説させていただきます。
この基準って、病院によって考え方がさまざまで、統一されているわけではありません。
そもそもこれらすべての術式を「日常的に」行っている病院は、全国的にもほとんど無いんです。
膣から脱出する骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤・膣脱)
まず、「膣から脱出する骨盤臓器脱」(子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤・膣脱)について。
当院では、「性生活を重視するか否か」で使い分けています。
膣側からの手術(経腟手術)
大半の方は、60代後半以上なので、性生活を卒業しています。
だからこのような方の場合には、膣側からの手術(経腟手術)をおすすめしています。
↑経腟手術は、長所の多い手術です。
短時間でできて、子宮を温存できて、手術の負担が軽く、原則メッシュ(異物)も使わなくて済み、再発もほぼありません。
だから当院では、この術式がもっとも多く行われています。
ただしこの経腟手術は、↑膣壁を切ったり縫ったりするので、膣壁に傷ができます。
だから性交障害(性交時の痛みや違和感)が起こる可能性があるんです。
おなか側からの手術(経腹手術)
一方、おなか側からの手術(経腹手術)は、性生活を重視する方におすすめしています。
膣壁に手を付けないので、「性交障害を生じるリスクが低い」という長所があるからです。
ただし手術時間が長くかかり、原則子宮を取る必要があり、手術の負担が大きく、体内にメッシュを留置する必要があります。
肛門から脱出する骨盤臓器脱(直腸脱)
次に、「肛門から脱出する骨盤臓器脱」(直腸脱)について。
直腸脱の場合には、「直腸脱のタイプ」で術式を使い分けています。
肛門側からの手術(経肛門手術)
軽度の直腸脱は、↑たるんだ直腸粘膜が先行して「シワシワ」という感じで脱出してくることが大半です(粘膜脱主体の直腸脱)
このようなタイプの直腸脱では、経肛門手術(デロルメ法など)を選択します。
この経肛門手術は、経腹手術と比べて、侵襲(ダメージ)が小さいという長所もあります。
おなか側からの手術(経腹手術)
いっぽう重度の直腸脱は、直腸筋層が「ボッコン」という感じで脱出してきます。
このようなタイプの直腸脱は、経腹手術(腹腔鏡下直腸固定術)で対応しています。
この直腸固定術、侵襲が経肛門手術より大きいという短所があります。
だから重度の直腸脱で、全身状態が悪い人の場合には、術式選択に悩むことになります(この状況よくあるんです)
術式を正しく選択する必要がある
直腸脱のタイプに適した術式を選択しなったらどうなるか。
重度の直腸脱に経肛門手術を行うと再発しやすいし、
逆に直腸粘膜脱に経腹手術を行ったら、たるんだままの直腸粘膜がまた脱出してくるんです。
だから、↑脱出の状態に応じて、適切な術式を選択する必要があるということですね。
・・・この直腸脱手術、少しずつ進化し続けています。
近い将来、ほぼ全例を、(負担の軽い)経肛門手術で治せる時代が来るかもしれません。
赤木一成
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科