先生、質問です!
うちの病院では、子宮脱とか直腸脱の手術をたくさんやってますよね。 これって、どっちがつらいんですか? |
スタッフの素朴な疑問に答えます。
おはようございます。
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
今日は、「子宮脱と直腸脱、どっちがつらい?」という、一風変わったテーマについてお話いたします。
まず結論から。子宮脱と直腸脱では、明らかに直腸脱がつらいです。
わたくしこれまでに、子宮脱や膀胱瘤の手術を、術者として1400例ほど手がけています。
そして直腸脱の手術は、300例ほど手がけています。
どちらもたくさん経験してきたんですけど、その「苦痛」や「患者さんの反応」には、あきらかな違いがあります。
そしてどちらがつらいかというと、これは明らかに直腸脱がつらいです。
以下、くわしく解説させていただきます・・・
子宮脱は、わりと余裕のある対応になることが普通です。
子宮脱の患者さんは、脱出を自覚して何年もたってから、病院を受診する人もざらです。
そして病院を受診して、子宮脱の診断がつきます。
子宮脱の根本的な治療は手術、一時的な対処はペッサリーです。
でも治療方針をその場で決めずに、そのまま帰っちゃう人がいます。
「まあそのうちどうするか決めればいいかな」という感じの人がよくいるんですね。
手術を希望する場合でも、切迫感はありません。
「手術予約は3か月後になります」と伝えたら、
「じゃあそれでお願いします」とか、
「そこは仕事が忙しいので、その次の月でお願いします」という反応になることが普通です。
直腸脱はたいていの場合、苦痛が強くて急ぐ状況になります。
いっぽう直腸脱はどうでしょう?
脱出を自覚したら、みなさん早目に病院を受診してきます。
そして直腸脱の診断がついて、自然には治らないと分かったら、全員が手術を希望されます。
そして手術予約するんですけど、「手術予約は3か月後になります」なんて、とても言えません。
直腸脱手術で一か月以上待たせたら、「えええ! そんなに我慢できない! なんとかしてちょうだい!!」という反応になってしまうんです。
緊急手術枠を作ってるんですけど、ここもすぐ埋まってしまいます。
だから直腸脱の患者さんが来院されたら、手術室の看護師長に電話して、無理やり手術を押し込むことになります。
でも直腸脱の患者さんって、やせてて高齢で、全身状態が悪い人が多いんです。
心臓が悪かったり、呼吸機能が悪かったり、腎臓が悪かったり…
だからせっかく手術予約を入れても、手術延期になることがあるんです。
その時にみなさん、「命を落とすことになってもいいから、予定通り手術してほしい」とおっしゃるんです。
本当につらくて困ってるんでしょう。
でも手術で命を落とされたらもっと困るので、手術を延期して、安全な状態にもっていってから手術するしかないんです。
子宮脱と直腸脱を合併している人でも、やっぱり直腸脱の手術が優先になります。
もうひとつ、子宮脱と直腸脱を合併している人の手術を、当院では日常的に行っています。
本人と相談して、治療方針を決めるんですけど、どんなパターンがあると思いますか?
①子宮脱と直腸脱を同時に手術する。
②直腸脱だけ手術して、子宮脱は経過を見てどうするか決める。
③子宮脱だけ手術して、直腸脱は経過を見てどうするか決める。
(ちなみに②は、「直腸脱はつらいから直したいけど、子宮脱は気にならないのでなにもしなくていい」という人です。こういう人けっこういます)
これまでの経験では、①が7割、②が3割という感じで、③を希望する人はいまだに一人もいません。
これを見ても、やっぱり子宮脱より直腸脱のほうがつらいということが分かります。
赤木一成(辻仲病院柏の葉 骨盤臓器脱外科)