骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
わたくし毎日のように、子宮脱や膀胱瘤などの骨盤臓器脱手術をしてまして、患者さんから数多くの質問を受けます。
その質問の中で最も多いのが、この「仕事復帰」に関するものです。
目次
術後に「生活注意事項説明用紙」をお渡ししています
↑これは、骨盤臓器脱手術を受けた方全員に、お渡ししている用紙です。
患者さんの術後生活について、注意事項をまとめて、2枚の用紙にしています。
内容は、15年にわたって洗練改良を重ねてきています。
もし生活注意事項で疑問がおありでしたら、まずこの用紙をチェックしてくださいませ。
知りたいことの大半は、この用紙に書かれているはずです。
家事や買い物などの日常生活は、痛みが落ち着いたら復帰OK。
骨盤臓器脱手術を受ける方で、最も多いのは、やっぱり「主婦」です。
退院後にいちばん気にされるのは、もちろん家事に関することですね。
この場合、「腹圧がかからない作業であれば、痛みが落ち着いたらOK」と、説明しています。
みなさん退院後わりと早い時期から、復帰されてるみたいです。
事務仕事も同様で、痛みが落ち着いたら復帰OKとしています。
次に事務仕事について。
デスクワークとか、軽作業のような仕事ですね。
これは、家事と同様に扱っています。
「痛みが落ち着いて、自分が大丈夫だと判断すれば、復帰していいですよ」と説明してます。
これもみなさん、退院してわりとすぐ、仕事に復帰しているようです。
力仕事は「最低一か月、できれば二か月は無理しない」と言ってます。
つぎは、力仕事についてです。
重いものを持つとか、一日中立ちっぱなしの仕事の人は、注意が必要です。
この場合、「最低一か月、できれば二か月は無理しないでください」と言ってます。
「休んでください」とは言いづらいので、「無理しないでください」です。
負担の軽い仕事に回してもらえるのであれば、そうしてもらうのがいいですよね。
休業のために診断書が必要であれば、依頼してくれれば対応します。
遠慮なくお申し付けください。
運動は一律2か月禁止
ワタクシ、「運動は一律2か月禁止」としてます。
運動っていろいろあるから、一律で「二か月お休み」はおかしいんじゃないの?
そんな疑問を抱かれる方も、いらっしゃるかもしれませんね。
ええ、もちろんそれは百も承知です。
たとえばウォーキングとテニスでは、運動負荷はだいぶ違うでしょうしね。
でもですね・・・
運動の種類別に、お休み期間を変えるなんて、非現実的なんですよね。
一人一人に違うことを伝えていたら、混乱のもとになってしまいます。
そもそも「骨盤臓器脱術後に、運動種類別にどれくらい休養が必要か」なんて、エビデンス自体が存在しません。
(エビデンスって、「研究で裏付けられた、医学的に妥当な根拠」とでもいう意味です)
だから医師の経験にもとづいて、「これくらいかなー」と、決めるしかないんです。
ということでワタクシの場合、運動に関しては、「二か月」で統一しています。
ちょっと長いと思う人もいるかもしれないけど、(仕事と違って)生活かかってないんだから、別にいいじゃないですか(笑)
安静を守らないで無理したら、「出血」などのトラブルが起こります
「じゃあ無理したらどうなるの?」という疑問、だれでも抱きますよね。
もっとも多いのは、やっぱり「出血」です。
骨盤臓器脱の経腟手術を行った場合、↑前後膣壁に傷ができます。
この傷が完治するまで、2か月くらいかかります。
その間に無理をすると、膣壁の傷がこすれて、出血の原因になったりするわけですね。
(まあ、止血処置を要するケースは、年に一人いるかいないかレベルですが・・・)
あと、むかし一人だけ、傷口が開いた人がいましたね。
重度肥満の方が「ドッスン」と座った時に、そうなったみたいです・・・
近年では、無理したことが原因で「再発」することは希です
むかし行っていた、骨盤臓器脱メッシュ手術(TVM手術)は、↑メッシュアームを靭帯に通すやり方でした。
アームの摩擦力で、子宮や膀胱を持ち上げていたんです。
このやり方だと、力仕事でアームがずれて、再発の原因になっていたんですね。
だから「二か月間の安静」を強調していました。
でも現在の骨盤臓器脱手術は、↑「子宮頸部を靭帯に固定」する方法へ進化しています。
このやり方だと、少々の力がかかっても、ずれたり外れたりすることがありません。
これらの工夫によって、子宮脱膀胱瘤手術や直腸瘤手術の再発は、最近ほとんど0になっています。
少々力仕事をやっても、簡単に再発しなくなっているんです。
(直腸脱手術は、また話が別です)
以上です。
術後安静の主目的は
以前は「再発予防」だったけど、いまは「傷のトラブル予防」になってるということですね。
赤木一成 骨盤臓器脱外科