おはようございます。
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
週末なので、「一週間の骨盤臓器脱手術記録」を書きます。
患者さんを特定できないよう配慮して、数週間前の日常を描写しています。
手術を8例行いました。
この週は、子宮脱+膀胱瘤の手術を7例行いました。
また、「骨盤臓器脱術後に生じた尿失禁」に対し、TOT手術を1例行いました。
みなさん特に問題なく経過して、予定通りの退院です。
骨盤臓器脱術後に排尿状態はどうなる?
骨盤臓器脱手術を受ける予定の方から、排尿に関する質問を、いろいろいただくことがあります。
質問は、だいたい↓この三つに集約されます。
「いま尿が出にくいんだけど、骨盤臓器脱手術を受けたら尿は出やすくなりますか?」
「ときどき尿が漏れることがあるんですけど、骨盤臓器脱手術を受けたら尿もれは良くなりますか?」
「今は排尿は正常なんだけど、骨盤臓器脱手術を受けたら尿が漏れやすくなりますか?」
結論から言いますと・・・
「骨盤臓器脱の術後に、排尿状態がどうなるか正確に予想するのは難しい」
「だからまず骨盤臓器脱を治して、術後の排尿状態に応じた手を打つのがベストです」
私はこのように説明しています。
以下、くわしく解説してみます・・・
「いま尿が出にくいんだけど、術後に尿は出やすくなりますか?」
これは、尿が出やすくなるケースが大半ですね。
骨盤臓器脱で膀胱が下がっていると、尿道が屈曲して圧迫されて、尿が出にくくなっていることがあります(上図左の赤矢印)
この場合、骨盤臓器脱手術で膀胱が挙上されると、尿道の圧迫が取れます(上図右)
そのため、術後は尿がスムーズに出やすくなるんです。
ただし、重度の骨盤臓器脱の人では、もともと膀胱の収縮力が弱っていることがあります。
このような人が骨盤臓器脱手術を受けても、尿が出にくい状態が続くことがあるんですね。
まず手術で膀胱尿道の形を正常に戻したので、今度はお薬や体操とかで、膀胱収縮力の回復を待ちましょう。
「ときどき尿が漏れることがあるんですけど、術後に尿もれは良くなりますか?」
これは、良くなる人もいるし、良くならない人もいます。
①良くなる場合
骨盤臓器脱で膀胱が下がっている人では、切迫性尿失禁という状況が起こることがあります。
「急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、我慢できずに漏れてしまう」という症状ですね。
膀胱が下がっていることで、膀胱の知覚が異常になってて、尿を貯めることができなくなっているわけです(上図左)
この場合、手術で膀胱の位置が正常に戻ると、尿失禁の症状が軽快してくることが多いです。
②良くならない場合
逆に、良くならない人(または悪化する人)もいます。
もともと尿道の締まりが相当ゆるくて、術前から尿が漏れている人の場合(上図左)がこれに該当します。
この場合、骨盤臓器脱手術で尿道圧迫がとれると、さらに尿漏れが悪化してくるわけですね(上図右)
これを「腹圧性尿失禁」といいます。
切迫性尿失禁と、腹圧性尿失禁って、問診で区別できることが多いです。
でもどっちのタイプの尿失禁か、問診で区別しにくいこともよくあります(特に高齢の方)
さらに、両方のタイプが合併している尿失禁もあるから(混合性尿失禁といいます)、話がややこしいんですよね・・・
「今は排尿は正常なんだけど、術後に尿が漏れやすくなりますか?」
これは、漏れやすくならない人もいるし、もれやすくなる人もいます。
↑これは、骨盤臓器脱手術を受ける方全員に、かならず説明している内容です。
(手術前にお渡しする説明用紙に記載されています)
このように・・・
尿道の締まりが正常の人であれば、骨盤臓器脱術後に尿漏れが生じることはありません。
ただしもともと締まりがゆるい人では、術後に漏れやすくなることがあるということですね。
ということで・・・
「骨盤臓器脱術後に排尿状態がどうなるか、正確に予想するのは難しい」ということです。
だから当院では・・・
①まず骨盤臓器脱手術をやって、膀胱尿道を正常の位置に戻す。
②術後の排尿状態に応じて、適切な手を打っていく。
この安全確実な方針を採用しています。
赤木一成 辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科