りっぱなすいか。
おはようございます。
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
週末なので、「一週間の骨盤臓器脱手術記録」を書きます。
患者さんを特定できないよう配慮して、数週間前の日常を描写しています。
手術を8例行いました。
この週は、子宮脱膀胱瘤の手術を7例行いました。
また、腰椎麻酔(下半身麻酔)で行う小手術を、1例行いました。
全員トラブルなく経過し、予定通りの退院です。
この週は、手術で特記すべきことは無かったんですけど・・・
外来で一人、手術予定が延期となった方がいました。
術前検査で、重度の糖尿病が判明したため、糖尿の治療を優先することになったんです。
骨盤臓器脱手術を受ける方でもっとも多い持病:糖尿病
「なぜ重度の糖尿病だと、手術したらいけないの?」
当然、そんな疑問が起こりますよね。
これって、「免疫力」が関係しています。
糖尿病では免疫力が低下するので、放置したまま手術を行うと、「術後創感染」を起こすリスクが高くなるんです。
術後創感染って、手術した創(傷)のところに細菌が繁殖して、膿がたまる合併症です。
だから、糖尿病がある方の手術は、慎重に対応する必要があるんですよね。
重度糖尿病の人に手術するとどうなる?
糖尿病が無い人の、順調な術後経過では、↑創は短時間できれいに治っていきます。
いっぽう重度糖尿病の人では、術後創感染のリスクが高くなります。
もし術後創感染が起こったら、対処が必要となります。
↑創を開いて、たまった膿を出し、抗生物質で細菌を退治する必要があります。
傷口が開いた状態のまま、肉が盛り上がって治るのを待つので、治癒までの期間が何倍にも延長します。
瘢痕(傷あと)が残って、見た目も悪くなります。
最悪の場合、敗血症(細菌が全身に回ること)となって、重症化する恐れも出てきます。
どうやって糖尿病の重症度を判定するの?
当院で判定基準に用いているのは、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という数値です。
正常値は4.6〜6.2%の間です。
この数値が高いほど、糖尿病が重症ということです。
HbA1cが問題ない場合
HbA1cが7未満であれば、問題なく手術できます。
よかったですね。
HbA1cが明らかに高い場合
HbA1cが8以上では、重度の糖尿病と判断します。
このまま手術を行うのは危険です。
このような場合には、手術を何か月か延期して、糖尿を十分コントロールしてから手術に臨みます。
手術を延期できない場合には(苦痛が激しいとか)、手術の1週間~2週間前から入院して、インスリンで厳格にコントロールしたうえで手術することもあります。
HbA1cが微妙に高い場合
HbA1cが7~8の間は、微妙なところですね。
ワタクシとしては、ある程度手術を延期して、もっと糖尿をコントロールしてから手術に臨みたいところです。
でも実際には、すべての患者さんが、「手術延期はイヤです」と言うんですよね(笑)
・・・ということでこの場合には、入院まで一か月くらいあるので、節制していただくようにしています。
糖尿病で術後感染を起こした人はいるの?
↑私がこれまでに手がけた、約1900例の骨盤臓器脱(子宮脱・膀胱瘤・直腸瘤・膣脱)手術では、感染を起こした人はいません。
(いっぽう直腸脱手術では、これまで手がけた400例のうち2例に感染がありました)
人体相手の仕事だから保証はできないけれど、「感染リスクはきわめて低い」と言っていいでしょう。
赤木一成
辻仲病院柏の葉・骨盤臓器脱外科