骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
今回は、「骨盤臓器脱手術で子宮を取るの?」というテーマについて、お話させていただきます。
目次
経腟手術:昔は子宮を取っていた。いまは全員温存可能
ここでは経腟手術(膣側からの手術)について、お話させていただきます。
「子宮脱の手術」というと、「子宮を取るんですか?」と聞かれることがよくあります。
20世紀の骨盤臓器脱手術は↑「従来法」といいまして、子宮を取る術式が主流だったんですけど・・・
いまは、子宮を取る必要はありません。
もっといい方法があります。
子宮を取っても、他のところが再発してくる
↑これが、骨盤臓器脱でもっとも頻度の高い、「子宮脱+膀胱瘤」の図です。
昔の子宮脱手術は、子宮を取るやり方が主流でした。
↑子宮を取ったところです。
子宮を取った切り端(断端)を、奥の靭帯に縫い付けて固定します(青矢印)
さらに↑膣壁を縫い縮めて、膀胱瘤が出てこないようにします(前膣壁形成術といいます)
昔の手術では・・・
①子宮を取る、②断端を固定する、③膣壁を縫い縮める
という3つのステップが必要だったんです。
時間もかかるし、子宮を取るから侵襲(ダメージ)も大きかったんですよね。
でもこのやり方って、時間がかかって侵襲も大きいけど、成績は今ほどよくなかったんです。
まず、断端の固定が上手くいかなくて、↑膣が脱出してくることがあります。
これを膣脱といいます。
中に膀胱や腸が入っています。
前膣壁形成術した場所が弱ってきて、↑膀胱が出てくることもあります(膀胱瘤)
↑小腸が出てくることもあります(小腸瘤)
子宮脱って、別に子宮が悪いわけではありません。
ということで・・・
「子宮脱って、べつに子宮が悪いわけじゃないんだから、子宮を取る意味あるの?」という疑問が生じてきました。
子宮が下がってこないように強固に固定したり、
膀胱が出てこないように膣壁をしっかり補強したり、
肝心なのはそっちの方なんですよね。
手術は進化する。
メッシュ手術(TVM手術)という革命的進化。
20世紀のあいだは、このような手術(子宮を取る手術)が主役だったんですけど・・・
2000年代に入って、TVM手術(メッシュ手術)が登場することで、ブレイクスルーが起こりました。
「子宮を取らずに治せて、再発が圧倒的に少ない」という、画期的な方法があらわれたんです。
私が骨盤臓器脱手術に参入したのは2010年だったんですけど、このころはTVM手術が全国に普及しつつある時期でした。
私も病院の研究日に、毎週毎週師匠のもとに通い詰めて、必死で技術を習得した記憶があります。
メッシュは時とともに小さくなってゆき、最終的に・・・
その後さらに、技術は進化していきます。
経験を積むにつれて、「メッシュの必要性が高い場所」「そうでもない場所」という区別が、少しずつ明らかになってきました。
そして↑メッシュが徐々に小さくなってゆき、
残ったメッシュのところにも数々の工夫を加え、
最終的に・・・
すべてのケースで、メッシュを使わずに、メッシュ手術と同等の修復ができるようになったんです。
約10年の歳月をかけて
「子宮を取る+メッシュ無し修復」→
「子宮温存+メッシュ修復(TVM手術)」→
「子宮温存+メッシュ無し修復」
という方向に進化したんですね。
今のやり方は、↑このように子宮を靭帯に固定して(仙棘靭帯固定術)、膀胱瘤を縫い縮める(前膣壁形成術)方法です。
図で示すとシンプルですが、実際にはここにいろんな工夫が詰め込まれています。
わたくし現在はこの方法をメインでやってますが、再発はほぼ無く(いまのところ再発率1%以下)、重大な合併症も無く、満足すべき成績が得られています。
メッシュを使わないから、メッシュ露出やメッシュ感染などのリスクもありません。
子宮を取らず、手術時間も長くないので、侵襲(ダメージ)も大きくありません。
自分の考える「理想の骨盤臓器脱手術」が、ほぼ実現したんじゃないかなーと、個人的に思っています。
今回はマニアック過ぎましたかね。失礼しました・・・
追記:経腹手術(腹腔鏡下仙骨膣固定術)では、原則子宮を取る
つぎは、経腹手術のお話です。
この術式では、手術中に子宮を取るやり方が主流です。
子宮頸部にメッシュを固定する際の、操作のやりやすさが関与しているようですね。
(わたしはこの手術やらないので、軽く触れるにとどめておきます・・・)
赤木一成 骨盤臓器脱外科医師