骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
今回は、「経腟手術と経腹手術の使い分け」について、お話させていただきます。
じつはこれって、病院によって方針がバラバラで、統一した基準があるわけではありません。
目次
大半の病院は、ひとつの術式一本槍
そもそも大半の病院は、自分ができるひとつの術式一本槍(大半は腹腔鏡下仙骨膣固定術)
というのが現状です。
薬を選択するのと違って、手術は一つの術式を習得するだけでも大変だから
まあ、仕方ないことなんですけどね。
ちなみに私の施設では・・・
- メッシュ無し子宮温存手術
- マンチェスター手術
- 経腟メッシュ手術(TVM手術)
- 従来法(子宮を取って膣を縫い合わせる)
- 膣閉鎖術
- 腹腔鏡下仙骨膣固定術
など、考えうるすべての術式に対応できる態勢を確立しています。
(ただし、TVM手術、従来法、膣閉鎖術の3つは、技術の進化とともに淘汰されて消えた)
経腟手術と経腹手術があります
経腟手術
まず、経腟手術から
これは、↑患者さんの股間側から行う手術です。
上に記した、メッシュ無し子宮温存手術とか、マンチェスター手術とかは、この「経腟手術」になります。
経腹手術
つぎに経腹手術
これは、「おなか側から行う手術」です。
この経腹手術、腹腔鏡というカメラを使って行います。
おなかに数ミリ程度の小さい穴を何個かあけて行うので、おなかの傷は目立ちません。
ということで、骨盤臓器脱手術には二つのアプローチがあるということですね。
どうやって使い分けるの?
「じゃあこれらの術式を、どうやって使い分けるの?」という疑問が、当然起こりますよね。
ということで今回は、当院の基準を解説させていただきます。
この基準って、病院によって考え方がさまざまで、統一されているわけではありません。
そもそもこれらすべての術式を「日常的に」行っている病院は、全国的にもほとんど無いんです。
「性生活を重視するかどうか」で使い分けている
結論から言うと、私の場合は・・・
「性生活を重視するか否か」で使い分けています。
膣側からの手術(経腟手術)
大半の方は、60代後半以上なので、性生活を卒業しています。
だからこのような方の場合には、膣側からの手術(経腟手術)をおすすめしています。
↑経腟手術は、長所の多い手術です。
短時間でできて、子宮を温存できて、手術の負担が軽く、メッシュ(異物)も使わなくて済み、再発もほぼありません。
だから当院では、この術式がもっとも多く行われています。
この経腟手術の唯一の短所は・・・
↑膣壁を切ったり縫ったりするので、膣壁に傷ができる、という点ですね。
そのために、性交障害(性交時の痛みや違和感)が起こるんです。
だから、性生活がある方には向きません。
おなか側からの手術(経腹手術)
一方、おなか側からの手術(腹腔鏡下仙骨膣固定術)は、性生活を重視する方におすすめしています。
膣壁に手を付けないので、「性交障害を生じるリスクが低い」という長所があるからです。
ただしこの腹腔鏡下仙骨膣固定術、短所が多いです(私の意見ですが)
手術時間が長くかかり、原則子宮を取る必要があり、手術の侵襲(ダメージ)が大きく・・・
そしてなにより、体内にメッシュ(異物)を留置する必要があります。
この手術の対象となるのは、性生活を重視する、比較的若い人が多いです。
でもそんな若い人たちは、「まだまだ長く生きるのに、おなかの中に一生メッシュを入れて大丈夫なの?」と思うんですよね・・・
性生活があるのも、あと5年とか10年くらいかもしれない。
それだけのために、体内にメッシュを留置する価値があるか。
正解があるわけではありません。
本人ご主人とよく相談して、意思を尊重して術式決定するようにしています。
赤木一成 骨盤臓器脱外科医師