肛門側から、直腸の粘膜と筋層を縫合して壁を補強する方法。
この経肛門手術は、直腸瘤の「膣側からの脱出」を治す力は弱い。特に膣から大きく脱出する直腸瘤をこの方法で治すことはできない。
この術式は膣に手をつけないので、性行為時に不具合が生じる可能性がきわめて低いという長所がある。そのため比較的若い人には、原則としてこの経肛門手術が行われる。
またこの術式は、直腸重積や直腸粘膜脱などを伴っており、「排便障害」が主訴の直腸瘤を治すのにも適している。
直腸瘤の経肛門手術について。
左:直腸の粘膜と筋層、およびその下層にある丈夫な筋肉(肛門挙筋)にしっかりと糸をかけて縫い縮める。
右:反対側も同様に縫い縮める。
左:縫合が完了したところ。
右:断面を側方から見たところ。直腸瘤は縫いつぶされて、丈夫な壁が形成される。
直腸瘤の手術(経肛門手術):解説
この直腸瘤の経肛門手術は、主に大腸肛門外科医が行っている術式です。
この術式は経膣手術と比べると、直腸瘤の「膣側からの脱出」を治す力が弱いことが分かっています。
特に膣から大きく脱出する直腸瘤は、この経肛門手術で治すことはできません。また子宮脱や膀胱瘤を合併している場合にも対応することができません。
よってこのような場合には、膣側からの手術を選択する必要があります。
ただしこの経肛門術式にはいくつかの長所があるため、状況に応じてこの術式が選択されます。
まずこの方法は膣に手をつけないので、術後に性行為を行っても不具合が生じないという長所があります。
だから性行為や出産などを考慮すべき若い人の場合には、この経肛門手術を選択します。
また排便障害が主な訴えとなっている患者さんでは、直腸重積や直腸粘膜脱などの排便障害をきたす疾患を合併していることが多く、このような場合には経肛門手術で同時に治すことができます。
さらにこの術式は、経膣手術と比べるとシンプルな術式なので、割と短期間の入院で治療が行えるという長所もあります。
(マニアックな蛇足・・・)
この経肛門手術は、イラストだけを見ると単純明快な術式です。
でもこの術式は、「縫合が不十分だとすぐ再発するが、やりすぎると膿瘍や直腸膣ろうのリスクが起こる」と言われており、なかなか難しいところがある手術です。
この経肛門手術では、直腸の壁を縫合するときに、「粘膜を切開しないで粘膜と筋層をいっしょに縫合する方法」と、「粘膜を切開してその下の筋層を縫合する方法」があります。
ここで示した、粘膜を切開しないで単に縫うだけの方法(Block法といいます)であれば、膿瘍や直腸膣ろうを起こすリスクはまずありません。
そのかわり正常の粘膜同士は、縫ってもなかなかくっつかないので再発の可能性が高くなります(腸の粘膜同士がくっつきやすいのであれば、すぐに腸がつまってしまいますよね)
逆に表面の粘膜を切開してその下の筋層を縫合する方法(Sullivan法といいます)は、縫ったところはくっつきやすくなるのですが、直腸粘膜が傷つくために膿瘍や直腸膣ろうのリスクが生じてしまいます。
膿瘍や直腸膣ろうのリスクなしに、きちんと縫合した部位がくっつく方法はないのか?
全国各地の大腸肛門科の専門病院ではこのジレンマを認識しているようで、施設それぞれの対応策を確立しているようです。
このへんは、「餅は餅屋」ですね・・・
作成:赤木一成(辻仲病院柏の葉 医師)