骨盤臓器脱外科医師の赤木一成です。
今回は、「骨盤臓器脱手術前に行われる検査」について、お話させていただきます。
目次
なんで手術前にこんなに検査があるの?
手術を受ける患者さんから、「なんでこんなに検査が必要なの?」と言われたことがあります。
必要最小限の検査にしぼって行ってるんですけど、それでも多いと思う方がおられるようですね。
検査の必要性について、ひとつひとつ説明しても、実感がわかないかもしれませんね。
だからここでは、「検査をやらずに手術すると、どういう危険が起こりうるか」という視点で書いてみましょうか。
骨盤臓器脱手術の前に検査が必要な理由
当院で骨盤臓器脱手術を受ける患者さんに行う検査は、以下のようなものです。
効率よくやるので、そんなに時間はかかりません。
①血液検査
②心電図
③胸部レントゲン
④呼吸機能検査
⑤血栓リスク検査
⑥子宮がん検査
⑦大腸内視鏡(直腸鏡)
⑧腹部超音波検査 etc…
あとは患者さんの状態に応じて、精密検査を追加することもあります。
①血液検査をやらずに手術するとどうなる?
血液検査で判明する事項としては、
貧血、低白血球症、低血小板症、凝固能力異常、肝機能異常、腎機能異常、低栄養状態、糖尿病、感染症
などがあります。
だから血液検査をやらずに手術すると、以下のようなトラブルが起こりうることになります。
貧血:心臓の負担が増えて心不全を起こしやすくなる
低白血球:感染を起こしやすくなる
低血小板・凝固能力異常:血が止まらなくなる
肝機能異常:肝不全を起こして致命的になる
腎機能異常:腎不全を起こして透析が必要となる
低栄養状態:傷が治りにくくなり、感染を起こしやすくなる
糖尿病:傷が感染しやすくなる
感染症:肝炎ウィルスやHIVウィルスの確認
いずれも、重大なトラブルとか、致命的なトラブルが起こりえるわけですね。
②心電図をやらずに手術するとどうなる?
心電図では、脈拍の異常とか、心血管の流れ具合とか、いろんなことが分かります。
心電図をやらずに手術すると・・・
心筋梗塞・狭心症・不整脈などを見逃して、ときに致命的となりえます。
③胸部レントゲン検査をやらずに手術するとどうなる?
これは、入院手術で全身麻酔を行う前に行う検査です。
(日帰り手術で下半身麻酔〔脊椎麻酔〕のときには通常行いません)
胸部X線検査でチェックしていることは、呼吸器系・循環器系の異常です。
呼吸器系の異常としては、肺炎・肺結核・肺気腫・胸水貯留・肺がんなど。
循環器系の異常としては、心不全・胸水貯留・胸部大動脈瘤など。
胸部X線検査をやらずに手術すると・・・
心不全が悪化したり、肺炎が悪化したり、結核菌が院内に広がったりと、重大なトラブルが起こりうるんです。
④呼吸機能検査をやらずに手術するとどうなる?
これも、入院手術で全身麻酔を行う前に行う検査です。
(日帰り手術で下半身麻酔〔脊椎麻酔〕のときには通常行いません)
呼吸機能低下を見落として手術すると・・・
術後に呼吸不全がおこりやすくなり、人工呼吸器から離脱できなくなります。
また痰を排出できないから、肺炎が起こりやすくなって、ときに致命的となります。
⑤血栓リスク検査をやらずに手術するとどうなる?
下肢の静脈に、血栓ができている人がいます。
この血栓が、術中術後に肺に飛ぶと、ときに重篤な状態となります。
いわゆる「エコノミークラス症候群」というやつです。
骨盤臓器脱の診察時に、同時に下肢もチェックして、血栓リスク評価の血液検査も行います。
血栓リスクが高い場合には、あらかじめ下肢エコー検査を行って、血栓の有無を確認するようにしています。
⑥子宮がん検査をやらずに手術するとどうなる?
これはまあ、当たり前ですね。
子宮脱を手術するんだから、子宮に癌がないことを確認しておく必要があります。
(直近で検査を行っている人では省略します)
子宮がんを見逃して子宮脱手術をやってしまうと、癌細胞を体内に取り残して、命にかかわります。
⑦大腸内視鏡(直腸鏡)をやらずに手術するとどうなる?
骨盤臓器脱手術の前には、↑大腸内視鏡検査も全員に行っています。
直腸(大腸の肛門近くの部位)だけを観察すればいいので、↑直腸鏡という方法で行うことも可能です。
(直近で検査を行っている人では省略します)
なぜこの検査が必要かといいますと・・・
子宮や膣は、↑直腸に隣り合っているからです。
骨盤臓器脱の手術を行うと、直腸に癒着が起こります。
もし後日、直腸がんが見つかったら、この癒着のために手術に支障が生じる恐れがあるわけですね。
⑧腹部超音波検査をやらずに手術するとどうなる?
これは、膀胱腫瘍と水腎症のチェックを行う検査です。
骨盤臓器脱手術では、膀胱の近くを切ったり縫ったりするため・・・
もし進行した膀胱腫瘍を見逃すと、あとで膀胱手術が必要となった時に、支障を生じる可能性があるわけですね。
(実際の骨盤臓器脱手術では、「膀胱壁の外を覆う膜」を温存する層で操作するので、支障を起こす可能性は極めて低いと考えられますが)
さらに、ある程度進行した骨盤臓器脱だと、尿が出にくくなっているので・・・
水腎症(尿の出が悪くなって、腎臓に尿が貯まって拡張する状態)を生じて、腎臓に負担がかかっている可能性もあります。
「見逃すと重大な結果をきたす検査」だけ、最低限に行います
・・・ということで
「見逃したら重大な結果をきたす検査」だけを厳選して行っています。
これらの検査は、どこの病院でも、どんな手術でも、術前に共通して行われているものばかりです。
赤木一成 骨盤臓器脱外科医師