膣側から粘膜を切開して、膣と直腸の間を補強する方法。
この経膣手術は、直腸瘤の「膣側からの脱出」を治すのに適している。特に膣から大きく脱出する直腸瘤は、経膣手術でなければ治せない。
いっぽうこの経膣手術は、性行為や出産に支障が起こる可能性がある。だから原則として、閉経前の若い人にはこの経膣手術は行わない。
またこの経膣手術は、直腸重積や直腸粘膜脱などを伴っており、「排便障害」が主訴の直腸瘤を治すのには適していない。だからこのような場合にも、経肛門手術を選択することが多い。
直腸瘤の経膣手術について。
ここでは従来から広く行われてきた、後方膣壁縫縮術(posterior colporrhaphy)を例にあげて説明してみる。
左:膣の粘膜を切開し、膣と直腸の間をはがしていく(剥離:はくり)。
右:膣と直腸の間には、図のように筋肉(肛門挙筋)が走行している。
この肛門挙筋を剥離して、縫合できるように真ん中に寄せる。
左:肛門挙筋を縫合して、膣と直腸の間にある壁を補強する。
※ここで示したのは「肛門挙筋を縫合する方法」。
肛門挙筋を縫合せず、「膣周囲の丈夫な組織を縫合補強する方法」もある。
右:縫合が終了したら、膣の余った粘膜を切除して、縫合閉鎖して終了。
直腸瘤の手術(経膣手術):解説
この直腸瘤の経膣手術は、婦人科医が手がけることが多い手術です。
ただし私が所属しているような大腸肛門科の専門病院では数多くの直腸瘤の手術を手がけているため、大腸肛門外科医がこの経膣手術を日常的に行っています。
この経膣手術の最大のメリットは、直腸瘤の「膣側からの脱出」を治す力がすぐれているという点です。2013年の報告でも、経膣手術の方が経肛門手術より成績が優れているという結果が出ています(参考文献1)。
そのためわれわれの施設では、「膣側からの脱出」が主訴の直腸瘤を治療する場合には、原則としてこの経膣手術を選択することにしています。
いっぽうこの経膣手術には、「若い人に行うと、その後の性行為や出産に支障が起こる可能性がある」という短所があります。
図で示したように、この経膣手術では、膣の粘膜を切ったり縫ったりする必要があります。
そのため、傷が治ったあとに膣粘膜に凸凹やしこりが残る可能性があるため、性行為時の痛みや違和感などの苦痛が生じる恐れがあるのです(本人もパートナーも)
この性交障害が起こる可能性は必ずしも高いわけではなく、まったく起こらない人の方がはるかに多いと考えられるのですが、それでも若い人であれば回避するに越したことはありません。
そしてもちろんこの膣を切って縫うような術式は、将来出産を予定している人に行わない方がよいのは言うまでもありません。
ですからこの経膣手術は、(よほど重症例を除けば)今後も性行為や出産を考慮しなければならない若い人にすすめることはありません。
このような場合には、原則として経肛門手術をお勧めしています。
またこの経膣手術は、直腸重積や直腸粘膜脱などの排便障害をきたす疾患が合併していた場合にも、対処ができないという短所もあります。
合併している直腸肛門疾患も同時に治すのであれば、膣側からの手術とは別に直腸肛門の手術が必要となることになり、手術の傷が膣と肛門の二箇所になってしまうわけです(もちろん技術的には問題なくできるのですが、傷は少ないに越したことはありませんよね)。
参考文献
(1) Cochrane Database Syst Rev. 2013 Apr 30;(4)
Surgical management of pelvic organ prolapse in women.
作成:赤木一成(辻仲病院柏の葉 医師)